2014年7月18日金曜日

Morry Sofer "Global Business Dictionary: English, Chinese, French, German, Japanese, Russian"

これはビジネス辞書というより、ビジネス用語六か国語対照表と言ったところ。Amazonに表示されているタイトルが間違っているが、見出し語は英語で、対応する中国語・フランス語・ドイツ語・日本語・ロシア語が挙げられている。日本語だけ見ているとどうかというような訳語もあるが、特に完全に定訳のある専門用語などでは正確なようだ。フランス語やドイツ語については、ほぼ間違いないと思われる。もちろん、それぞれの言語の辞書で引きなおして確認することは必要だと思うが。

何語のどの専門分野でも、一般的な辞書を使っているととんでもない間違いをすることがある。特にわたしの場合はフランス語のビジネス辞書が必要なのだが、最も頼りになる白水社の「経済フランス語辞典」は入手困難である。古いとは言え素晴らしい辞書なので、是非改訂して再版して欲しいのだが・・・。もちろん、英仏あるいは英和であれば、他に色々あるが、間接的にでもフランス語と日本語が接続しているビジネス辞書を探すと、まあこれくらいのところ。さらに、ドイツ語・中国語・ロシア語もついてくるから、わたし的には効率的だ。リアルに正確な翻訳のためには、この本は参考にしかならないが、それでも第一歩にはなる。

Schreiber Pub (2005/10/30)
ISBN-13: 978-0884003090

John Marzluff, Tony Angell "Gifts of the Crow: How Perception, Emotion, and Thought Allow Smart Birds to Behave Like Humans"

これは翻訳も出ている名著だが、ちと専門的過ぎる部分が・・・。カラスの賢い行動を色々解明していて、行動を紹介しているところは非常に面白いのだが、それに一々ついてくる脳科学的説明が、多分、一般人にはウけない。とはいえ、行動を紹介している部分に関しては、日本からの報告も多くて面白すぎるので、カラスが好きな人には必読だ。カラスが賢いことは、特に日本人は良く知っていると思うが、多分、この本で解明されている賢さは、予想を上回る。

The best book on the crow. Passages sometimes get too complicated for laymen, because the anatomy of birds' brain are not too interesting. Still, fascinating and the best source for us raven-lovers.

Atria Books; 1版 (2012/6/5)
ISBN-13: 978-1439198735

2014年7月16日水曜日

Charles Dickens "A Christmas Carol"

有名だし、短いから読んでみたということで、まあ確かにベタで面白い。問題があるとしたら、この種の「改心」という現象を信じているかどうかで、正直なところ、観念的なキリスト教文明だなあと思うのである。

A famous novel. Therefore, worth reading. Amusing, except for that I do not believe the phenomena called "reform".

antam Classics (1986/11/1)
ISBN-13: 978-0553212440

2014年7月11日金曜日

Morris Rossabi "The Mongols: A Very Short Introduction"

モンゴル帝国興亡史。時代的にはチンギス=ハンの登場から、元・チャガタイ=ハン国・イル=ハン国・キプチャク=ハン国の崩壊まで。面倒くさい学術的な話は抜きにして、シンプルかつ痛快にモンゴル帝国の興亡を描く。地域的には東は朝鮮から西はハンガリー・ポーランドまで。中国・ロシア・ウクライナ・アゼルバイジャン・イラン・トルコなどは占領されている。エジプト・日本・ベトナム・ビルマ・ジャワなどにはモンゴルは撃退された。

タイトルが分かりにくいが、現代モンゴルとかは完全に対象外で、モンゴル帝国最盛期の最も面白いところのみをシンプルに叙述している本で、一気に読んでしまった。Oxford Very Short Introductionsの歴史カテゴリの中では間違いなく最も面白かった。ちなみに二位は"Russian History"だが、もちろん内容はかぶる部分もある。ロシアがタタール人(Golden Horde)から受けた影響については若干解釈が違うが、とにかく痛快で、予備知識はほとんどいらない。もっとも地域が広大なので世界地図はあったほうが良い。わたしも世界史に特に詳しいわけでなく、モンゴルについては日本でサムライたちに撃退されたとか、中央アジアの都市を次々蹂躙してたくらいの漠然とした知識しかなかったが、実際にはサマルカンドどころかバクダッド・シリアまで侵攻してエジプトを窺っていたくらいで要するに草原がある限りは進撃していたらしい。他方、密林や島嶼での戦闘には向いていなかったらしく、日本やベトナムには撃退されている。この本では軍事面だけでなく、特に文化面の交流もシルクロードを中心に深く描かれていて、そちらも非常に面白い。あいにくと日本はサムライたちがモンゴルを撃退してしまったが、やっぱりたった100万人の貧しいモンゴル人たちが史上最大の帝国を築いたというのはスゴいことだ。どんどんこっち方面の本を読んでいきたい。

As few as a million of poor Mongols built the world's largest empire throughout the Eurasian continent. Remarkable. Most brutal, yet military forces of Japan, Egypt &c succeeded to defeat the Mongols. There is always something to learn from the history. Rossabi depicts not only the Mongols military history, but also explains cultural heritage of the Mongols, which is also really fascinating. One of the best books in VSI.

Oxford Univ Pr (2012/5/4)
ISBN-13: 978-0199840892

2014年7月8日火曜日

Peter Atkins "Physical Chemistry: A Very Short Introduction"

物理化学、または計算化学の概説。タイトルが地味だが、なかなかエキサイティングな内容で、日本語で類書を見たことがないが、VSIの中でも名著と言える。これを翻訳すれば化学志望者が増えそうだ。関連分野として、熱力学、量子力学、生命科学、材料、電池、超電導、量子コンピュータ、ナノテクとか、他にも数えきれないくらいの分野が登場し、それらとの関連で物理化学の現状と今後の課題がどんどん示される。まさに化学の最先端というところ。なんとなく化学というと、もう終わっているような気もしていたが、とんでもないことで、無限のフロンティアが広がっている。特に近頃は計算量が増えているし、技術的にも原子単位でモノを作ったりするので、この先も何が起こるか分かったものではない。わたしとしては、最近、甲種危険物取扱者を取ったくらいのことで、化学に若干興味を持っている程度だが、予備知識としては高校程度の物理化学で十分だ。合わせて読みたいSupercondutivityThe Laws of Thermodynamicsと言ったところ。いずれも名著だ。三つとも翻訳すれば売れると思う。

A bland title, exciting contents. Really fascinating.

Oxford Univ Pr (2014/6/24)
ISBN-13: 978-0199689095

2014年7月1日火曜日

Ali Rattansi "Racism: A Very Short Introduction"

これは翻訳するべきだし、日本語の似たような本より読みやすいだろう。標準的な教科書として、そこそこ売れる気がする。白黒はっきりつけるような簡単な本ではないが、世間に蔓延るいい加減な単純化を避けている本は、日本であまり見かけない気がする。日本で同じような本があるとすれば、どうせ単純な結論ありきみたいな説教本が想像され、手に取る前に読む気をなくすわけだが、そういうムキにはお勧めしたい。差別と言っても色々で複雑に絡みあっているものだが、この本の中心的な主題はあくまで人種差別で、特にユダヤ人や黒人がテーマとなる。もっとも、たとえば黒人といっても、差別する側のほうで既に定義があいまいだし、今となっては、自分が差別主義者であると考えている人なんかほとんどいない。にも関わらず社会レベルで観察すれば明白に差別は存在する。たとえば、アメリカでは黒人が白人を殺すと、白人が黒人を殺した時より15倍の確率で死刑になるらしいが。じゃあみんな偽善者として断罪するべきというのもムチャな単純化で、話が複雑になるのは避けられない。もちろん、単なる正々堂々とした人種差別主義も存在し、その論拠をすべて論破するくらいのことはこの本でも十分にやっているが、主たる論点は、もっと混沌としたものだ。

Very good overview on racism. This is not an easy topic, since there are few who think themselves as racists. Yet there are abundance of evidence of racism. Then, we all are hypocrites? This is not a all-or-nothing matter. That is why this book is sometimes described as challenging, I guess.

Oxford Univ Pr (2007/4/5)
ISBN-13: 978-0192805904

2014年6月30日月曜日

Hermione Lee "Biography: A Very Short Introduction"

「伝記」というジャンルの歴史。著者は英文学関係の伝記を書くのが専門のようで、出てくる例も基本的にそんな感じ。伝記と言っても、ただの歴史みたいなところから、「模範的な生き方」を示すものとか、「作品解読のための伝記」とか、心理分析とか、まあ、色々な見方というか書き方があるわけで。著者自身が伝記作家なので、色々な方法論などを研究した集大成みたいなものかもしれない。良い本だと思うし、特に伝記を書こうというような人には必読書だと思うが、何分にも例示されるのがイギリス人ばかりなので、翻訳してもあまり一般には売れないかもしれない。

It describes varieties of ways to telling someone's biography. Interesting.

Oxford Univ Pr(2009/8/31)
ISBN-13: 978-0199533541

2014年6月26日木曜日

R. D. Laing "Wisdom, Madness and Folly"

レインの著作をたいてい読み終えてしまってから、最後に読んだ本。わたしがレインを読み始めた頃は、既にいわゆる反精神医学というのも失敗が明らかになっていた頃だったと思う。レインは、わたしにとっては、精神分析からもっと広大な哲学の世界への懸け橋だった。もちろん、実存主義はとっくに力を失っていて、みんながバカにしていたが。わたしの理解では、レインは実存主義的な心理学を分裂病(統合失調症)患者に適用して、いわば正常人に対するのと同じように分析できると考えたんだと思う。現状はというと、実存主義は哲学としては現象学にオーバーライドされ、精神病の理解としては、脳科学ないし行動療法のようなもっと単純な話に完全に圧倒されている。二つの流れに共通しているのは、実存主義が絶対視していた自己意識というものを軽視しようとする風だと思うが、そんな簡単に済む話かねえと最近は思う。この本についてはエッセイ的なところでもあるし、わりと入りやすいところだろう。

An autobiography and also a good intro to Laing.

Canongate Pub Ltd(1999/03) ISBN-13: 978-0862418311

John Stuart Mill "The Autobiography of John Stuart Mill"

これを読んだのはかなり前だが、ミルの頭の良さというより、そもそもの家庭環境とか受けた教育とかを知るにつけて絶望するしかない。今時あまりヘヴィな人文的教養とか流行らないのかもしれないが、もしかすると、文学部などで大学院に進学しようなどと考えている、さして裕福でない家庭の出身者は、早めにこういう本を読んで絶望しておいたほうが良いのかもしれない。

This book brings to those who want to be a scholar in so-called liberal arts a desperation, which I think a good thing.

ARC Manor (2008/9/1)
ISBN-13: 978-1604503142

2014年6月25日水曜日

Donald Winch "Malthus: A Very Short Introduction"

まあ、昔から経済学者の考えることは変わらないというか。中心的な主題はリカードとの対立を軸に語られるので、一応経済学史の知識がないと読みにくいと思う。

A good overview on Malthus's scholarship.

Oxford Univ Pr (2013/7/24)
ISBN-13: 978-0199670413

John Dunn "Locke: A Very Short Introduction"

ロックの伝記・思想の概要。有名ではあるが、名前だけ教科書で知っているという多数の有名人の一人で、何か一冊読んでおくという場合にはVSIは外れは少ない。この本も読みやすいし、類書も少ないんじゃないかと思う。個人的には信頼trustの概念は注目だ。政治哲学で「信頼」という概念は貧弱過ぎて、何か別のものに還元しないと成立しないような感じが常識化しているが、本当にそうなのかどうかはもう少し考える必要があるのかもしれない。それはそれとして、著者Dunnの立場としては、Lockeは基本的に悲劇的に失敗した思想家だそうで、まあハードな理論化には完全に失敗しているのかもしれないが、良識のある人だったんだとは思う。

A good intro to Lockes's scholarship.

Oxford Univ Pr(2003/7/31)
ISBN-13: 978-0192803948

Paul Cartledge "Ancient Greece: A Very Short Introduction"

一般的な古代ギリシア史だが、都市毎に論じられている点が特徴。スケールが違うが、日本の戦国時代を大名ごとに編集したようなものだ。というわけで、予備知識として、一応、古代ギリシア全体の漠然とした通史でも把握していないと、いきなりこれは読みにくいかもしれない。高校の世界史レベルでもいいかと思う。わたしは古典ギリシア語もやっていたことがあるので、この本はなかなか萌えるものがあったが、多少とも古代ギリシアに興味があれば楽しく読めるだろう。

Concise histories of 11 ancient Greek cities. Maybe you need to have some knowledge about ancient Greece beforehand. Fascinating.

Oxford Univ Pr (2011/11/10)
ISBN-13: 978-0199601349

2014年6月24日火曜日

Germaine Greer "Shakespeare: A Very Short Introduction"

これは・・・。シェイクスピア入門ということではなくて、シェイクスピアの世界に関するランダムな逍遥批評というところか。初心者が読むのには適していないし、ある程度ハマっていないと楽しくないだろう。わたしとしては、実はあまりシェイクスピアを原文読みしたことはなく、翻訳劇しか知らないが、にしてもあまり感心しなかった。

Not an introduction but random thoughts about Shakespeare's world.

Oxford Univ Pr (T) (2002/5/16)
ISBN-13: 978-0192802491

Terrell Carver "Engels: A Very Short Introduction"

エンゲルスについては、「マルクスの第二バイオリン」「第二バイオリンに謝れ」というやり取りしか知らないくらいだが、この本もやはりマルクスとエンゲルスの差異を表すのに紙幅を割かれている。どっちにしろマルクス主義として一括されてしまうが、歴史に興味がなくても、一応これくらい読んでおいたらいいかもれしれない。

A good book which explains the difference between Engels and Marx.

Oxford Univ Pr (2003/7/31)
ISBN-13: 978-0192804662

Peter Singer "Marx: A Very Short Introduction"

しばらくVSIの思想家本を読んでいるが、これは出色だ。著者はVSIのHegelも書いていて、こちらも悪くない。マルクスに関してはそこそこ色々読んでいるが、入門書としては一番だと思う。特に日本語だと、ムダに戦闘的だったり晦渋だったりバカだったりするし。

個人的には、少なくとも小学校は日教組全面支配で、今から思うと完全にバカ共産主義の典型的な教育で酷い被害を受けたし、大学は大学で平気で古いマルクス主義経済学をやっていて、まあ話としては面白いが、学問的レベルが激低だったりで、いわゆるマルクス主義者には嫌悪感しかない。本書にもバクーニンの異議(結局酷い独裁政権ができるだけでしょ)が挙げられているが、別にソ連が崩壊しなくても日教組レベルで恐ろしい状況が生まれていたわけで、あの状況を恐ろしいと認識できない人間が共産主義なんかやっているんだろう。ゾッとする。いや、逆に完全右傾化教育も同様に酷いと思うが。

しかし、そんなわけでマルクス研究者は、経済学から哲学方向へシフトし、特にフランス語圏からその潮流が日本に流れ込んだこともあり、好き嫌いはさておき、マルクスの生み出した概念などは我々の思考に完全に入り込んでいる。特に近頃のワーキングプアとかブラック企業とかいう話を聞いていると、普通にマルクス主義が復活するとは思えないが、労働から疎外されるという主張は一定の説得力を持つようになるだろう。承認欲求とかいう言葉も流行っていて、まあ基本的には労働していない人間が騒いでいるが、人間らしい労働こそが真っ当な承認欲求を満たす方法だと主張することもできるだろう。そういう方向でも一つの示唆にはなるかもしれない。別に今さらマルクス主義者が増えたりもしないだろうし、こういう本で見直してみてもいいと思う。

Very good intro. It is not probable that Marxists increase at this stage of history. Now we can discuss Marx's legacy without much ado.

Oxford Univ Pr (2001/1/18)
ISBN-13: 978-0192854056