2016年7月14日木曜日

A. M. Glazer "Crystallography: A Very Short Introduction" [結晶学:非常に短い入門]

目次:1.長い歴史 2.対称性 3.結晶構造 4.回折 5.原子を見る事 6.放射線源

いわゆる結晶学の概説で、日本語でも英語でも類書を見ないから、かなり貴重な本ではないかと思う。ただ、なぜ類書がないのかはこの本を読めば分かる通り、話自体がかなり難しいからなんだろう。この本、一応丁寧に初学者向きに書いてはいるものの、それでも、群論・フーリエ変換・光学・エックス線等の基礎知識がないと厳しい。おそらく、理工系の学生でも三年目くらいにならないとしんどいのではないかと思われる…。これまで200冊以上VSIを読んでいるが、その中でも最も難しいと言い切って良いだろう。

わたしとしては、たまたま光通信の勉強をする機会があったので、非常に勉強になった。光ファイバ自体の他、レーザーダイオードなどの付属機器の理解に、この本で解説されるような結晶学の知識は非常に役立つ。他にも本書で触れられる通り、結晶学の知識が必要な分野は結構多いから、ちと難し目ではあるが、翻訳したら需要もあるかもしれない…。

A very good and rare introductory book on this subject, though it might be very challenging to those who have no back ground....

Oxford Univ Pr (2016/06)
言語: 英語
978-0198717591

2016年7月13日水曜日

Thierry Debard, Serge Guinchard "Lexique des termes juridiques 2016-2017 - 24e éd."[法律用語辞典2016-2017第24版]

定番のフランス法律辞典。毎年改訂されるので、一応買い換えている。類書は他にも色々あるけど、結局、決め手になるのは、二色刷りとか活字とか装丁だ。ふと思ったが外国語の勉強に自分専門分野の辞書というのは悪くないかもしれない。Que sais-je?の100 motsも同じことだ。

J'aime la présentation de ce livre. Facile à lire.

Dalloz(22 juin 2016)
フランス語
978-2247160754

2016年6月16日木曜日

Chris Shilling "The Body: A Very Short Introduction" [身体:非常に短い入門]

目次:1.自然の身体か社会的な身体か 2.性別のある身体 3.身体を教育すること 4.身体を統治すること 5.商品としての身体 6.身体の問題:ジレンマと論争

例によってタイトルが短すぎて意味が分からないが、翻訳出版するなら「身体の社会学」というところ。本来ならこういうタイトルは読まないが、冒頭を数ページ読んで、筆者の誠実な文体が気に入って全部読むことに。出てくる人名はゴフマンとかアガンペンとかブルデューとか、社会学者がほとんどだ。

実際ものすごく良く書けている。たとえば二章は普通のフェミニズムの見解を普通に述べているだけだが、社会学を学ぶのなら当然把握しておくべき内容が分かりやすくまとめられている。以降、パノプティコンとかバイオポリティクスとか対面の相互作用とか、社会学の基本を「身体」という面から学習できる。社会学の初学者には、英語の勉強も兼ねて読む価値が高い。翻訳すれば、全国の社会学の学生の指定図書になると思うし、結構売れそうに思う。

ここから先は完全にわたしの個人的な感想だが、最初から最後まで"embodied"という形容詞が気になった。冒頭でも著者は西洋哲学の身体軽視を批判するところから入っているが、それでもまだ日本人・東洋人の感覚から遠いような気がする。それでも社会学からすれば大きな一歩なのかもしれないが。ただ、最後の辺り、インターネット越しの社会関係と、身体の近接を前提とする社会関係の相違は、少し考える気にはなった。

I am not a big fan of sociology any more. Still, this book is extremely well written.

2016年6月10日金曜日

H G Wells "The Invisible Man" [透明人間]

古典的名作であり、実際相当面白い。「今読むとやっぱり古い」みたいな意見もあるようだが、わたしは全くそうは思わない。今、透明人間をテーマにした小説・マンガ・ドラマを作っても、こんなに面白くならないだろう。ユーモアもあり、怪奇もあり、謎の感動もある。

話は要するに透明になることに成功した人間の冒険だが、主人公の性格が狂っていて良い。利己的で、自制心が弱く、暴力的である。今だったら主人公を慎重な性格に設定して、透明であることを活かして悪と戦ったりしかねないところだ。夜神月には共感しないがグリフィンには共感できる。元々準備万端で透明になったわけではなく、衣食住の確保から苦労するが、基本的には盗みと暴力の壮絶なドタバタになり、喜劇なのか悲劇なのか判定が難しい。クライマックスでは一つの町を恐怖で支配するとか言い出し、その割に手始めにやることが個人的な復讐というのもこの主人公に相応しい。グリフィンは悪い奴だが、それに相応しい末路を迎えるわけで、謎の感動がある。

この小説を読む人は、自分だったらどうすると必ず考えると思うが、自制心が子供並で、屈強の肉体を持っている上に他人から監視されないとなれば、まあ、遅かれ早かれ、百人が百人こんなことになるんだろうと思う。その意味では、ほとんど普遍的な真理を描く名作文学である。世間でどう評価されているのかあまり知らないが、単なる「SFの古典」ではなく、もっと高く文学的に評価されても良さそうなものだ。訳は見ていないが、古典だし大体大丈夫たろう。

One of the best novels I have ever read. Griffin is a bad guy, sure, and if we contrive a modern TV series featuring a invisible man, we will create him as a hero fighting with evil forces or something. Nonsense. If we have only childlike self-control and a tough body suitable for hand-to-hand combat and are not be seen from others, sooner or later, we will all become Griffin. The Invisible Man tells us a universal truth. This is not only a classic SF, but also one of the great literatures in the world.

2016年6月1日水曜日

Robin Wilson "Combinatorics: A Very Short Introduction" [組み合わせ論:非常に短い入門]

目次:1.組み合わせ論とは何か 2.四種類の問題 3.順列と組み合わせ 4.組み合わせ論の動物園 5.敷き詰めと多面体 6.グラフ 7.正方行列 8.デザインと幾何学 9. 分割

この本はわたしには初歩的過ぎて公平なレビューにならないかもしれない。中学生だとしんどいかもしれないが、おそらく日本の高校生くらいなら普通に読めるだろう。全く頭を使わないわけではないが、紙と鉛筆が必要なわけでもなく、pop mathより少し踏み込んでいるくらい。わたしの場合、コンピュータサイエンスを相当やった経緯があるのと、群論の知識が初歩的にでもあるので、ちと易し過ぎる。肝心なところで証明が無かったりするのが気になるが、レベルを考えるとやむを得ない。

中途半端なpop mathを読むくらいなら、真剣な数学書を最初だけ読んで挫折するほうが優れている、というのがわたしの持論だが、この本についても翻訳してもイマイチな気はする。パスカルの三角形をいじるような組み合わせ論については中高生向けの本もあるだろうし、N=NP?みたいな話なら計算機科学でやはり初歩的な本も山のようにあるし、四色問題のようなグラフ理論ならVSIでもいい本がある。ただ、そのあたりを一冊で済ましているということもあるので、大学生の英語の勉強には良いかもしれない。

It was too elementary for me, though maybe a good reading for japanese high-school students.

Oxford Univ Pr (2016/07)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198723493

2016年5月11日水曜日

Peter Molnar "Plate Tectonics: A Very Short Introduction" [プレートテクトニクス:非常に短い入門]

目次:1.基本的な考え 2.海洋底拡大と磁気異常 3.破砕帯とトランスフォーム断層 4.海洋リソスフェアの潜り込み 5.リソスフェアの固いプレート 6.大陸のテクトニクス 7.どこから来てどこへ行くのか?

地磁気の話を読んでいたので、そのつながりで手を出しただけだが、予想外に面白かった。わたしとしてはプレートテクトニクス≒大陸移動説+地震くらいに思っていたところ、この本では、大陸の地殻変動も結構詳しく語られる。とはいうものの本書は基本的にはプレートテクトニクスという言葉を海洋底に限定している。何でかと言うことも本書で詳しく語られるが、要するに、海洋底がモノスゴク固くてプレート境界以外でほとんど変形しないのに対し、大陸を乗せているリソスフェアは簡単に変形して、「プレート」と言いにくいらしい。

通常、VSIでは標準的なフォーマットとして「研究史」「研究方法」「研究結果」が語られるが、本書ではすべてが織り込まれて一つのストーリーとして語られる。一つには研究の歴史が浅いせいで、大陸移動説やプレートテクトニクスがまともに受け入れられ始めたのは1960年代になってからのことだ。そういうわけで、通常の教科書よりは物語性が高くて読みやすい。一つ残念なのは、日本周辺の話が手薄なことだが、語られているのは基本的に一般論なので、日本周辺でもだいたい同じことなんだろう。熊本の地震もあったことだし、プレートテクトニクス一般だけでなく、地震や地質学に関心がある人にもお勧めだ。

We who live in a island arc should be familiar with this theme. Much more fascinating than I thought.

Oxford Univ Pr(2015/05)
英語
ISBN-13: 978-0198728269

2016年4月25日月曜日

Stephen Blundell "Magnetism: A Very Short Introduction" [磁気:非常に短い入門]

目次:1.神秘的な魅力? 2.磁石としての地球 3.電流と力への道 4.統一 5.磁気と相対論 6.量子磁気 7.スピン 8.磁力図書館 9.地球上と宇宙の磁気 10.奇妙な磁気

VSIのフォーマット通りで、前半は磁気の歴史が語られる。初期の磁石の文化史みたいなところから電磁気学の一般的な歴史を通って相対論と量子力学の説明になる(古典物理学の範囲では磁石の存在すら説明できない)。教科書的とは言え、なかなか充実している。後半は工学的な応用の話や地磁気の話など盛りだくさん。ちょっと高校生では読むのはしんどいかと思うが、理系の大学生なら大丈夫だろうし、マクスウェル方程式を理解しているくらいなら問題ない。一応巻末にマクスウェル方程式は出ている。結構意外な話も多かった。

A variety topics of magnetism. From basics to sophisticated modern physics.

Oxford Univ Pr (2012/7/5)
英語
ISBN-13: 978-0199601202

2016年4月11日月曜日

Jason Martineau "The Elements of Music: Melody, Rhythm, & Harmony" (Wooden Books)[音楽の要素:旋律、表紙、和音]

近頃音の勉強を始めているので、久々のWooden Booksだが、これは微妙なところだ。書いてあることはいわゆる「楽典」に近いようなことだが、ある程度音楽の素養がないとついていけないところがある。「楽典」はたいていそうだが、この本も、手元にバーチャルにでも鍵盤がないと読みにくいだろう。専門家の評価は高いようだが、誰にでもお勧めと言うわけにはいかない。Wooden Booksはそういうものだが、真面目に勉強するための本ではない。

You should place a keyboard (at least virtually) before you while reading this book, I guess.

Walker & Co (2008/10/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0802716828

2016年4月10日日曜日

Christopher Hall "Materials: A Very Short Introduction" [材料:非常に短い入門]

目次:1.金・砂・糸 2.微細な検査 3.強固だがツルツル 4.電気の青 5.材料を作る事と物を作る事 6.砂のそんな量

この本はものすごく面白いのだが説明が難しい。目次でも伝わらないと思うが、とにかく、VSIにありがちな「これから専門分野を学ぶ学生のためのガイダンス」みたいな本ではない。要は様々な「材料」または「素材」という物について物理的・科学的・工学的・歴史的・経済的・資源的・環境的なあらゆる面から色々記述している。従って、単一の学問分野に限定されていない。これだけの広い知識を一人で扱う著者はスゴい。ちょっと難しい部分もあるかもしれないが、基本的には高校生でも読めるのではないかと思う。人に言いたくなるまめちしきが満載で、どういう人にお勧めというわけでもないが、強いて言えば資源を扱う商社マンとかか。もちろん、わたしみたいな単なる好奇心の強い一般人でも退屈はしない。タイトルが一般的過ぎるのであまり期待していなかったが、予想外のヒットだった。

The title may appear too simple, but it contains a lot of trivia and is never boring. The author describes so many materials from so many aspects. He is incredibly polymathy.

Oxford Univ Pr (2014/12)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0199672677

2016年3月31日木曜日

Barbara Bregstein "Easy Spanish Step-By-Step" [簡単スペイン語一歩ずつ]

目次:1.名詞・冠詞・形容詞 2.Estar, Ser主語代名詞 3.Hay、疑問詞、日、月 4.数、日付、時間 5.規則動詞 6.不規則動詞 7.Irと未来 8.形容詞と副詞 9.否定と前置詞 10.間接目的語 11.直接目的語 12.再帰動詞 13.接続法現在 14.点過去 15.線過去

スペイン語の独習用入門書。独検二級を取った後、週に三・四回程度、朝に二十分ほどずつ、半年くらいかかって終わった。真面目にやる人なら、一か月もかからないかもしれない。

外国語を始める時にどういう形態が良いかは人それぞれで優劣も不明だが、わたしのようにNHKフォーマット(スキット+語句文法解説)が苦手で、古典語のような文法+練習問題でやりたいムキにはこういう本が向いている。要所ごとにReadingが入ってくるが、基本的には文法事項と単語+ひたすら練習問題という形態だ。非常に良心的な本で、やっぱりこういう学習書は英語圏のほうが圧倒的に優れている。音声はないが、スペイン語はもともと発音が簡単だから、入門段階でさえ、ほとんど問題にならないだろう。

この本の注意事項として、早いうちに接続法現在が出てくる。動詞の形としては直説法現在の後に接続法現在を学ぶのは非常に合理的で、さして難しくもないのだが、多分、普通の学習課程では過去形や未来形を先に学ぶことが多いだろう。この点は、何か別テキストと並行してやる人は引っかかるかもしれない。ただ、この後、"Advanced"に進むわけで、どのみち、スペイン語文法を全部把握する気なら勉強する順番は問題にならないだろう。

McGraw-Hill Education (2005/12/21)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071463386

2016年3月24日木曜日

Annie Heminway "Practice Makes Perfect French Problem Solver" [フランス語の問題を解決]

目次:1.名詞:性と複数化 2.アクサンと有音のhと大文字化 3.形容詞と副詞 4.便利な代名詞 5.過去に関わる時制 6.未来時制と条件法と接続法・Could, Should, would・Whatever, whoever, wherever, whenever 7.動詞転移 8.間違いやすい動詞 9.不定詞・使役・現在分詞・ジェロンディフ 10.動詞と前置詞

意味の分かりにくいタイトルだが、フランス語教師である筆者が、生徒が間違いを犯しやすい文法項目を選んで特に訓練する文法問題集。難易度は一応"Intermediate"ということになっていて、だいたい仏検二級程度だと思う。従ってわたしには易し過ぎる…はずだが、実際には結構ボロボロだったりする。

フランス語もB2レベルになると、あまり文法を練習することも少なくなり、ダラダラしていると文法を忘れてしまう。というわけでダラダラと数か月やっていたが、まあまあいい感じというか、結構危機感を煽られた。この本は、趣旨からして体系的ではないが、間違いやすい点は英語話者も日本語話者も大して変わらないのではないかと思う。その意味では冠詞が項目にないのは特徴ではある。わりと解説が饒舌で、とっつきやすいようにだとは思うが、面倒くさい面もあった。まあ、仏検二級程度の人にはちょうどいい独学復習教材ではある。Practice Makes Perfectシリーズの常で、とても良心的な作品だ。

As with always the case with "Practice Makes Perfect" series, this exercise book was very effective for me.

McGraw-Hill Education (2013/5/20)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071791175

2016年3月21日月曜日

Nathalie Rouillé, Isabelle Raimbault "Dekita ! Apprendre ou Réviser les Bases de la Grammaire Japonaise Avec Exercices Corrigés" [できた! 解答付きで日本語文法の基礎を学び復習する]

フランス人向けの日本語問題集で、フランス人の評判は良いようだ。レベルはA2-B1とある。漢字はすべてカナが振ってある。もちろんわたしは日本人なので問題にならないし誤記を指摘できるくらいだが、それにしても日本語は難しい。普段あまり意識しないが、日本語とフランス語では文法体系が違いすぎる。改めてちょっと日本語文法を学ぼうかと思う。

Comme je suis japonais, je ne peux pas évaluer ce livre d'exercice. Bien sûr que c'est très facile pour moi, je suis choqué par le fait que la grammaire japonaise soit si compliquée... J'ai infiniment de respect pour tous les étrangers qui apprennent le japonais. Pendent ce temps, je voudrais apprendre la grammaire japonaise moi-même.

Ellipses Marketing (19 février 2013)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2729877217

2016年3月18日金曜日

Mike Goldsmith "Sound: A Very Short Introduction" [音:非常に短い入門]

目次:1.過去の音 2.音の性質 3.調和の音 4.音を聴くこと 5.電子的な音 6.超音波と超低周波 7.水中と地中の音 8.場違いの音

目次だけでは領域の広さが伝わらないかも知れない。音波の物理的な記述・和音と音楽の理論・人間の聴覚の仕組み・マイクやスピーカーなどの電子工学・色々な生き物の聴覚・潜水艦や非破壊検査や医学での超音波と低周波の応用・地震予知・騒音対策などなど。予備知識は何も必要なく、非常に読みやすいが、注記では数式は避けていない。色々な分野で人に語りたくなる豆知識が満載されている。音に関心のある人、たとえば音楽をやっているとか騒音対策に興味があるというような人は読む価値がある。とにかく広い分野に渡っているので、一つ一つはあまり深く解説はされないが、それでも知らないことばかりだった。何らかの形で音を仕事にしている人は、この本程度の知識はあって良いのかもしれない。

非常に短い本だが、面白すぎて読むのに時間がかかった。今まで200冊以上Oxford Very Short Introductionを読んできたが、実は「この件についてもっと研究したい」と思ったことはほとんどない。かなり面白くてもそれだけで満足してしまうのが常だが、この本を読んで真面目に音響工学をやる気になった。省みると、電気通信に詳しいせいで音について全く無知でもないし、何よりわたしは耳がかなり良く、音楽に全く興味がないにも関わらず音感は正確だ。一つ世界が開けた気がする。

Really fascinating. This book drives me into the world of sound engineering. One of the best books in VSI.

Oxford Univ Pr (2016/2/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198708445

2016年3月16日水曜日

Pénélope Bagieu "La Page blanche" [空白の頁]

どうもこの著者、一時期日本でも流行ったようで、「エロイーズ」という翻訳が出ている。多分、原書で読んでも翻訳で読んでもそんなに印象は変わらないのではないかと思う。

主人公、恐らく30絡みの女性だが、いきなり記憶喪失になっているところから話が始まる。ところが記憶喪失になったことを他人に知られたくない(何でか知らんが)ので、適当に調子を合わせつつ生活し、自分が何者かを探求していく。唯一頼れるのは同僚の一人の女性だが、記憶喪失前に特に仲良くしていたわけではないし、多分、主人公はちょっとバカにしていたくらいだろう。つまり、記憶喪失前の主人公は、さして好感の持てる人物でもなかったようだ。

読む前に知っておいたほうが良いと思うけど、基本的には何も起こらない。判明するのは、どうも記憶喪失前から単なるどこにでもいるメディアに踊らされる女だったらしいということくらい。謎で読者を引っ張るというよりは、自分の正体が不明と言う空気感を読ませるマンガだ。結局、正体は判明しないが、正体が判明したところで正体不明なのと何が違うのというような、非常に厳密に構成された話である。久しぶりに本格的なフランス文学を読んだ気がしなくもない。

En fin de compte, l'héroïne n'est pas identifiée. Mais, est-ce que cela ferait une différence?

Editeur : Le Livre de Poche (15 mai 2013)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2253167051

2016年3月2日水曜日

Pénélope Bagieu "Joséphine 3; Change De Camp" [ジョゼフィーヌ3:陣営変え]

前の巻でようやく誠実そうな男と付き合い始めた。前半は相変わらずだが、何分にもだらしない女で後半は妊娠してからの騒ぎ。といっても結婚するわけでもなさそうだ。わたしもそれほど詳しくないが、フランスはカトリックの国だから結婚が非常に重く、結婚ほどではないが民法上の準結婚みたいな制度が二、三あって、なんなら同性でもいい。カトリックという割には性的にだらしなさ過ぎる気もするが、とにかくそんな国なんだろう。ジョゼフィーヌのママは娘が結婚しないで妊娠したことに、やはりショックを受けているから、親はまた感じ方が違うのだろう。姉(普通に結婚して専業主婦)も世間体を気にしている。男たちの無関心との対照は笑いどころだ。あと、わたしはフランスでは労働者の権利が非常に強くて産休制度も充実していると教えられてきたが、ジョゼフィーヌは産休を取る時に上司に酷いことを言われている。…というような、教科書に書いてあるのとフランスの現実は違うということも分かるマンガというわけである。とにかく、このジョゼフィーヌ、軽薄でだらしなくて自分勝手で怒り過ぎだが、そんなのも含めてマンガになっているのは作者の力量だろう。醜い部分も含めて可愛く見えるのは相当洗練された感覚だと思う。

Oui, tout à fait fascinante.

Le Livre de Poche (1 juin 2012)
Langue : Français
ISBN-13: 978-2253131854