2023年1月26日木曜日

Claire Belton "Pusheen the Cat's Guide to Everything" [プシーン猫のなんでも案内]

pusheen.comからの最新刊。若干のユーモアのほかはただ可愛いだけ。日本で言えばすみっコぐらしと同じ客層になるだろうか。今回はbrotherだのsisterだの大幅にキャラが増えていて、特にオスが出てきたのをどう考えるかだが、人気が出て続いていくとこういうことになる。すみっコぐらしも当初は隅っこでそれぞれコンプレックスを持ってコソコソ生きている集団だったはずが、今やただのリア充集団だ。Pusheenについては元々そんな暗い設定はないので問題にならない。どうでもいいが、Hatsune Mikuとのコラボグッズが当初言われていたほど出てこないのは引っかかっている。

Kawaii.

Gallery Books (2023/1/10)
言語: 英語
ISBN-13: 978-1982165413

Paul Lafargue "Le Droit À La Paresse: Réfutation Du Droit Au Travail De 1848" [怠ける権利:1848年労働法への反駁]

有名な古典で、多分Bertrand Russell "In Praise of Idleness" [無為を讃えて]の直接の元ネタだろう。別に入り組んだ内容ではない。Russellと共通する中心的な認識は、機械化の進展で必要な労働量が減っているにも拘わらず労働はどんどん厳しくなり、そのわりに失業は増え、労働者による過剰生産と資本家の過剰消費が発生しているということだ。この事態を批判するはずの社会主義勢力も労働を神聖なものと持ち上げたり、あまつさえ労働の権利などと言い始める始末で、狂っていることに変わりはない。重要なのは労働権le droit au travailなどという狂気の概念ではなく、怠惰の権利le droit à la paresseである云々。わたしとしては御尤もな説だと思う。

LafargueまたはRussellの時代と現代日本の差はどれくらいあるだろうか。と考えた時に過剰生産vs過剰消費と過剰労働vs失業の対立が主な議題にはなると思うが、それはそれとして、個人的には「労働が美徳か悪徳か」というのはかなり大きな論点だ。または、どんな労働でもやらないといけないのなら楽しくやったほうが精神衛生に良いとしても、「働かないと暇すぎて苦痛」などというのは人として堕落しているような気もする。一般論としてプロテスタントは労働を神聖視するがカトリックはそうでもないとか、資本主義経済の下での労働が酷いとしても共産国の労働よりマシだろうとか、とにかく、この本を出発点に色んなことを無限に語れ過ぎて、今ここに書く気にならない。日本語訳もあるので読書サークル的なもので選定すれば、無限に議論が続くのは確実だ。

On peut avoir des discussions sans fin basées sur ce livre.

Legare Street Press (2022/10/27)
言語: フランス語
ISBN-13: 978-1016892148

2023年1月24日火曜日

Glen Van Brummelen "Trigonometry: A Very Short Introduction" [三角法:非常に短い入門]

これは翻訳すればVSIの中で過去一売れるかもしれない。高校生にはやや難しいかもしれないが高校の先生くらいが注を補完すればいいだろう。もちろん大学生なら読めるはず。

第一章「なぜ」この本は歴史の記述が魅力の一つだが、導入としてヒッパルコスの天文の問題とブルシューの塔の高さを測る問題とケルヴィン卿の潮汐の問題が語られる。この時点ではあまり面白そうな本の気がしないのだが。

第二章「正弦・余弦とその仲間たち」三角比が一気に導入される。おなじみのsine正弦・cosine余弦・tangent正接・cotangent余接・secant正割・cosecant余割のほかに普通の八線表にあるversed sine正矢・versed cosine余矢、さらにexsecant外正割・excosecant外余割・haversine半正弦が歴史的経緯とともに加えられる。グラフと逆三角関数も導入され、本書で使う基本的な三角関数が出そろう。

第三章「素手で正弦表を構築する」三角関数表の作成は世界中どの文明でも重要だったが、その歴史が語られる。必然的に加法定理や倍角の公式も出てくるが、21倍角の公式はこの本でしか見たことがない。冗談みたいな公式だが、手計算で精度を上げていくには避けられない。

第四章「恒等式、さらに恒等式」三角関数の様々な公式が実例や歴史とともに語られる。正弦定理・余弦定理以下、多分高校の教科書に載っているような公式は多分全部載っているが、モルワイデの公式とかあまり知られていないものも多い。

第五章「無限へ」三角関数の無限級数展開が扱われる。この本はあまり微積は使わないが、どうやって微積を使わないで正弦関数がテイラー展開されるのか疑問に思うような人は、多分、この本の良い読者になる。関数電卓が使っているCORDICの説明も勉強になる。フーリエ級数も扱われる。

第六章「さらにcomplexに」複素平面の導入からオイラーの公式、さらに双曲線関数の様々な公式が導入される。普通の教科書だと双曲線関数は突然定義されることが多いように思うが、ここでは導入の経緯から説明される。

第七章「球とその先」おそらくこれが著者の本領だが、名前だけ有名で実際には誰も勉強していない球面三角法について語られる。理屈の上では高校生でも「読者のための練習問題」を処理して読んでいけるはずだが、マニアックかもしれない。ちょっとWebを検索してもネイピアの円くらいは日本語で出てくるが、pentagramma mirificumとか日本語の定訳が見当たらない。

VSIでこういう高校の教科名みたいなタイトルはわりとレベルが低く、わたしはあまり手を出さないのだが、この本は退屈しなかった。純粋に数学的内容として知らないことは最後の球面幾何以外はほとんどなかったが、歴史的経緯が面白い。高校生が読むと普通に数学の勉強になるかもしれないが、大学生以上が楽に読んでも十分面白いと思う。あと、一応数学書には違いないので、多分電子書籍より紙で読んだ方が良い。

A good math review book for high school students and a wonderful relaxation reading for undergraduates or higher levels.

Oxford Univ Pr (2020/3/2)
言語:英語
ISBN-13:978-0198814313

2023年1月13日金曜日

Freda McManus "Cognitive Behavioural Therapy" [認知行動療法:非常に短い入門]

目次:1.CBTの行動学的起源 2.CBTにCをつけること 3.CBTの背後にある理論 4.CBTのスタイルと構造 5.CBTの方法 6.CBTの応用 7.将来の方向性と課題

心理療法と呼ばれる治療みたいなものは色々あって、人によって思い浮かべるものが区々だと思うけど、わたしの場合はまず1960年代くらいでアメリカで流行ったような精神分析だ。だいたい患者はほとんど寝ているみたいな楽な椅子に座っていて、精神分析医はその後ろでメモを取っているみたいな…。一時期はまともな上流階級の人間は週一くらいで精神分析セッションを受けているみたいな感じだったらしい。まあ、現代日本でもメンヘルとかいうライフスタイルが存在して、それに近いのかもしれないが。

精神分析は相当色々な文献を読んだが、結局あまり流行らなくなったし、わたしも興味を失ったというのは、話としては面白いんだけど、現実に治療効果が低いのと科学的根拠が無さすぎるからで。あと、薬も発達したし、フロイトがアクセスできなかった脳科学の知見も増えてしまった。フロイトの知見が全部無意味とは思わないが、わたしとしては、未だに精神分析がどうこう言っている人たちを、未だにマルクスを読んで有益な知見を絞り出そうとしている人たちと同じような目で見ている。酷い場合は精神症状は全部幼少期の性的虐待のせいみたいな本が売れて、大量の冤罪が生み出されたとか。

それとは対極にあるというか、それに反発したように出てきたのが行動主義で、ここから本書は始まる。心理学といっても科学的でなければならないということで、まず、目に見える行動以外は非科学的なので研究しないという心理学が出てきた。当然すぐに行き詰まり、やはりCつまり認知の要素も必要ということになって少し緩和されたようなことだ。

本書で語られる対象は、主に強迫神経症のようで、多くの場合、患者は、認知というか事実の解釈が間違っているらしい。例えば「心臓がどきどきする」というのを「死ぬかもしれない」と考えてしまう間違った信念があり、この信念が間違いであることを患者に体感させるのが目標らしい。どうも話が雑過ぎるし、そんな知的な説得で群衆恐怖症とかが治るんなら楽な話に思われるが、多分実際に効果があるんだろう。鬱病におけるnegative thinkingも対象として挙げられているが、とにかく主題は「患者の持っている間違った考えを訂正すること」であり、そんな話ならそう言えばいいだけで、どうもCBTの必要性が良く分からない。患者自身が実験して確認するというのが重視されているが、それにしても別にセラピストはいらないような…。実際最後のほうでは読書療法とか言い出して、CBTの本を読むだけでも効果があるとかいう話になっている。

要するに本書を読んでも、全体的にちょっとわたしにはピンとこない話だ。ただ、これはわたしがそういう問題に縁がないからで、医療の現場では少なくとも精神分析よりは治療成績がいいんだろう。最新の療法としてマインドフルネスを使うMCBTとかいうのも出てきて、もちろんマインドフルネス自体がそもそも心理療法なんだろうけど、そう思うと、全体的に自己啓発書に書いてあることみたいな話も多かった。もちろん自己啓発書のほうがCBTから知見を引用しているのだと思うが、一応科学的という意味で自己啓発書を読むよりこの本を読んだほうが良いかもしれない。ともあれ、CBTの概説書ではあるので、これから治療を受けるとか、そんな理由でどんなものか知りたければ読んで損はない。

An overview of CBT. Maybe CBT is very effective and practical for some sorts of psychological disorder, which I do not understand much, even after reading this book....

Oxford Univ Pr (2022/7/28)
言語 : 英語
ISBN-13: 978-0198755272

2023年1月9日月曜日

Silvanus P. Thompson "Calculus Made Easy" [簡単微積分]

目次:1.最初の恐怖からの救出 2.小ささの様々な程度 3.相対的成長について 4.最も簡単な場合 5.次の段階:定数をどうするか 6.和差積商 7.連続微分 8.時が変化する時 9.有益な回避法の導入 10.微分の幾何学的意味 11.極大値と極小値 12.曲線の曲率 13.他の有益な回避法 14.真の複利と有機的成長の法則 15.sinとcosをどう扱うか 16.偏微分 17.積分 18.微分の逆としての積分 19.積分で面積を求めることについて 20.回避法と落とし穴と勝利 21.いくつか解を見つけること

初版は1910年の歴史的名著とされている。内容的には初歩の微分から最後は一応簡単な微分方程式まで。演習問題は完全解答付きだが、そんなわけで一々解いていない。特徴としては、極限とかその他の厳密な議論をすっ飛ばしており、基本的には直観に訴えている。優れたヴァイオリニストがヴァイオリンを自作できる必要はないとかいう理屈で、まあ、今でも微積のこういう教え方は時々あると思うが、その元祖くらいなのかもしれない。にしても、ここまで乱暴な本はあまりないかもしれない。著者も言っているが、多分、同僚からボコられるんだろう。

そんなこともあるし、タイトルからして軽く見られそうだが、一応しっかりした微積分の入門書である。少なくとも高校程度の微積分はカバーしているし、演習問題もしっかりある。ただ、普通の大学のカリキュラムと整合しないと思われ、この本だけで微積分を済ませるわけにはいかないのが現実だろう。他方ε-δみたいな普通のカリキュラムは、何をそんなに気にしてそんな必死に議論をしているのか数学者以外には謎と言う問題もあり、どうかみたいな。

わたしにはどっちがいいのか判断する資格はないが、工学的な計算ができればいいだけなら、これで良いのかもしれない。少なくとも電験一種くらいならこれくらいで十分だろう。あるいは、微積分を教える側にとって有益な本かもしれない。

The easiest possible introductory course for calculus.

Independently published (2022/1/11)
言語: 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8799511098

2023年1月6日金曜日

Chris McMullen "Essential Calculus Skills Practice Workbook with Full Solutions" [基礎微積分:技術練習帳完全解答付き]

目次:1.多項式の導関数 2.連鎖の規則、積の規則、商の規則 3.三角関数の導関数 4.指数関数の導関数 5.対数関数の導関数 6.二階導関数 7.極値 8.極限とロピタルの規則 9.多項式の積分 10.定積分 11.三角関数の積分 12.指数関数と対数関数の積分 13.多項式置換による積分 14.三角関数置換による積分 15.部分積分 16.多重積分

世界的に評判の良い初歩の微積分の問題集。わたしはこれ以上に簡単な微積分の本を見たことがない…というのは、普通の微積分の導入で語られる面倒な理論的背景は完全に省略されている。つまり「すべての正の実数εについて」みたいな面倒くさい話が一切なく、ただただ微分と積分が機械的にできればよろしいというようなことだ。例えば最初からax^bの導関数はabx^(b-1)であるみたいなところから始まり、なぜそうなるのかの説明は一切ない。

解答はうっとうしいくらい丁寧で、簡単な式変形も省略しないで全部書いてあるし、正解の表記が何通りもある場合は全部書いてある。今の日本の高校の数学がどんなものか良く知らないが、この程度の微積分は高2くらいではなかろうか。相当数学が苦手な人でも「そこまで書かなくていいよ」と言って大半を読み飛ばすと思われる。

一つ、この本の明確な特徴として、三角関数として正弦・余弦・正接の他に普通に正割・余割・余接を使っている。裏表紙に本書に必要な公式が全部乗っているが、例えば∫secθdθ=ln|secθ+tanθ|+Cなどというのは公式扱いであり、説明はない。まあ右辺を微分すればすぐに分かることではあるが。

この辺りは好みなのかもしれないが、わたしはsec, csc, cotは使うべき派であり、tan^2θ+1=1/(cos^2θ)よりtan^2θ+1=sec^2θのほうがどう考えても覚えやすいと思うし、こういう本でもっと普及すればいいと思っている。

あと最大の特徴として、この本はworkbookということで、問題の一つ一つに対して余白があって、答を書き込めるようになっている。つまり別途紙を用意しなくていいということだが、これは人によっては利点かもしれない。この結構な余白と異様に丁寧な解答のせいで、ページ数のわりに問題数は少ない。

そんなわけで、この一冊で「微積分は全部片づけた」とは到底言えないが、多分、この本は昔勉強した微積分を思い出すためにやる人が多いんだと思う。わたしについては微積分は全然忘れていないが、とにかく試験であまりに計算間違いが多いので、算数ドリルと思って暇な時にやって三日で終わっている。知らないことは何もないのだが、やっぱり計算間違いはするもので、少し自分が勘違いしやすいポイントは分かったかもしれない。

Very good for revision.

Zishka Publishing (2018/8/16)
言語 : 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1941691243