これは翻訳すればVSIの中で過去一売れるかもしれない。高校生にはやや難しいかもしれないが高校の先生くらいが注を補完すればいいだろう。もちろん大学生なら読めるはず。
第一章「なぜ」この本は歴史の記述が魅力の一つだが、導入としてヒッパルコスの天文の問題とブルシューの塔の高さを測る問題とケルヴィン卿の潮汐の問題が語られる。この時点ではあまり面白そうな本の気がしないのだが。
第二章「正弦・余弦とその仲間たち」三角比が一気に導入される。おなじみのsine正弦・cosine余弦・tangent正接・cotangent余接・secant正割・cosecant余割のほかに普通の八線表にあるversed sine正矢・versed cosine余矢、さらにexsecant外正割・excosecant外余割・haversine半正弦が歴史的経緯とともに加えられる。グラフと逆三角関数も導入され、本書で使う基本的な三角関数が出そろう。
第三章「素手で正弦表を構築する」三角関数表の作成は世界中どの文明でも重要だったが、その歴史が語られる。必然的に加法定理や倍角の公式も出てくるが、21倍角の公式はこの本でしか見たことがない。冗談みたいな公式だが、手計算で精度を上げていくには避けられない。
第四章「恒等式、さらに恒等式」三角関数の様々な公式が実例や歴史とともに語られる。正弦定理・余弦定理以下、多分高校の教科書に載っているような公式は多分全部載っているが、モルワイデの公式とかあまり知られていないものも多い。
第五章「無限へ」三角関数の無限級数展開が扱われる。この本はあまり微積は使わないが、どうやって微積を使わないで正弦関数がテイラー展開されるのか疑問に思うような人は、多分、この本の良い読者になる。関数電卓が使っているCORDICの説明も勉強になる。フーリエ級数も扱われる。
第六章「さらにcomplexに」複素平面の導入からオイラーの公式、さらに双曲線関数の様々な公式が導入される。普通の教科書だと双曲線関数は突然定義されることが多いように思うが、ここでは導入の経緯から説明される。
第七章「球とその先」おそらくこれが著者の本領だが、名前だけ有名で実際には誰も勉強していない球面三角法について語られる。理屈の上では高校生でも「読者のための練習問題」を処理して読んでいけるはずだが、マニアックかもしれない。ちょっとWebを検索してもネイピアの円くらいは日本語で出てくるが、pentagramma mirificumとか日本語の定訳が見当たらない。
VSIでこういう高校の教科名みたいなタイトルはわりとレベルが低く、わたしはあまり手を出さないのだが、この本は退屈しなかった。純粋に数学的内容として知らないことは最後の球面幾何以外はほとんどなかったが、歴史的経緯が面白い。高校生が読むと普通に数学の勉強になるかもしれないが、大学生以上が楽に読んでも十分面白いと思う。あと、一応数学書には違いないので、多分電子書籍より紙で読んだ方が良い。
A good math review book for high school students and a wonderful relaxation reading for undergraduates or higher levels.
Oxford Univ Pr (2020/3/2)
言語:英語
ISBN-13:978-0198814313