「対称性」というpopular scienceでさんざんこすられたテーマに、popular scienceばかり書いている著者なので油断していたが、実際には非常にまともな群論の入門書である。VSIとしては当りの部類であろう。
最初のうちは古代の模様がどうとか、ありがちな話をしているが、突然、群論の講義が始まる。もちろん深入りはしていないが、正二面体群から始まって、剰余類だの正規部分群だの巡回群だの可換群だの軌道だのといった基礎概念は一通り説明されている。数学な得意な高校生くらいではついていけないのではないか。とは言え、15パズルとかルービックキューブとか数独の話は、それ自体は、そんなに難解なわけでもない。次に自然の中の対称性とか言って生物とか雪の結晶とか、緩い話がしばらく続くが、再びリー群だとかローレンツ群だとか超対称性だとかハードな現代物理の話になり、超ひも理論やら素粒子物理に応用される群論が解説される。さらにシュバレー群だとか有限単純群の分類とか現代数学の話になり、ここまでくると、もはや、理系の大学生でも何の話か分からないかもしれない。
というわけで特に数学に興味のない人がpopular scienceのつもりで読むと、恐らく群論が始まる辺りで挫折する。というか、理系の大学生でも挫折する奴が続出しそうだ。大学で群論の講義を受けさせられて、何の意味があるのか分からずにうんざりしている理系には最適と言える。この本は群論の応用法をはっきり提示してくれているからだ。科学が好き、くらいの人にはお勧めしかねる。数学(と英語)に自信があるなら、大学一回生でも面白く読めるかもしれない。類書もあると言えばあるが、好みの問題もあるし、薄くて数学的証明の緩い本書も一つの選択肢である。
A very short introduction to group theory. Very informative, but if this is the first time you ever read on group theory, it could be a bit difficult.
Oxford Univ Pr(2013/7/12)
ISBN-13: 978-0199651986