2012年11月30日金曜日

H. P. Lovecraft "The Shadow over Innsmouth"

いわゆるクトゥルフ神話の代表作。ラブクラフトの作品は昔に大抵読んでいて、二流だとしか思っていなかったが、ふと思い出してもう一度これを読んでみたら、記憶にあるよりは面白かった。世界観自体は好きなんで・・・。

どの辺が二流かと言うと、最大の理由は、「なんでか良くわかないけどとにかく嫌な感じを受ける」という類の主観的な描写が多過ぎるのである。正しくは、hideousとかhorribleとかいう主観的な形容詞は最小限にして客観的な描写に徹し、読者にこそ主観的な恐怖を体験させるべきなのではないか。エロ小説の描写で「エロい」とか「淫らな」とかいう言葉を多用している状態を想像されたい。ラブクラフトの場合は、読者が受けるべき印象を、一人称の主人公の受けた印象として描写してしまう。あとは、読者がいかに自分で自分を怖がらせるかに掛っているわけだ。

他にも文句は色々あるが、基本的にわたしはSAN値が高いので、ホラーに対して厳しい傾向がある。この小説もハッピーエンドにしか思えない。しかし、この小説の価値はそういうことではなく、神話の入門ということにあるのだろう。その意味では必読書である。この小説を元にした日本語のテレビドラマ「インスマスを覆う影」は名作だった。やはりハッピーエンドとしか思えないが・・・。

Ia! Ia! Cthulhu fhtagn! Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah-nagl fhtaga....

2012年11月24日土曜日

Geoffrey Hosking " Russian History: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199580989
Oxford Univ Pr(2012/4/7)

ロシアの壮絶な歴史。まずキエフ(今はウクライナだが)がモンゴルにさんざん蹂躙されるところから始まる。キエフは地政学的に防御が困難で、常に騎馬民族に襲撃される町なのである。その間、北のノブゴロドは森林に守られていることもあり、大人しくモンゴルに屈服して朝貢していた。反対側からバイキングだとか言ってスウェーデン人が攻めて来ていたので、モンゴル人の相手をしている場合ではなかったのである。しかし、この間、モンゴル人から統治術を学んだことが、ツアーによる専制からプーチンによる専制まで長い影を落とすことになる。

その後も一方では、キプチャクだのタタールだのコサックだのトルコだのから侵略されるし、他方ではスウェーデンだのリトアニアだのポーランドだのドイツ騎士団だのから侵略されて、一々の細かい戦争まで取り上げられていない。日露戦争に至っては一言も触れられていない(年表には辛うじて載っているが)。つまり、日露戦争なんか、遠くの国境でロシア軍が負けただけの話であり、そんな程度のことはロシア史では日常茶飯事で、一々書いていたらキリがないのだ。実際、ナポレオンのモスクワ侵攻も一ページ少々で済まされているくらいで、もともとロシアのやってきた戦争の数が、日本なんかとは桁が違う。

そして最終的にはスターリンという大災害に見舞われるわけだが、この本を読んだ感想としては、こんな過酷な条件の国は、どんな天才的な政治家が出てきても、キレイにまとめることは不可能ではないかと思われる。良く今まで生き残ってきたし、日本史というのが如何に平和ボケな歴史かというのが痛感される。とにかくロシア史というのは戦争だけでも盛り沢山なので、世界史に疎いわたしですら、もう少し書いてほしいと思うところが色々あった。ただ、わたし同様にロシア史について詳しくない人が読む分には退屈はしない。地図が一切載っていないので、Google Mapsは必須だ。

Fascinating. Lots of wars. Mongols, Kipchaks, Tatars, Cossacks, Lithuanians, Poles, Turkey, Sweden, German knights, France.... Finally, Staling. A history of a great survivor.

2012年11月23日金曜日

T. F. Hoad " The Concise Oxford Dictionary of English Etymology"

結構長く使っている英語の語源辞典。本気で語源の研究をする人は、もっと分厚い専門書を探したほうがいいし、語源で英単語を覚えたいとかいうことなら、他に日本語でも良い本があるのかも知れない。わたしの場合は、複数のヨーロッパ言語を使うので、時々語源が気になって調べたくなるくらい。実際には、Online Etymology Dictionaryでも大体間に合うのだが。これとラテン語・ギリシア語をはじめ、いくつかのヨーロッパ系の言語の辞書を持っていると、結構ヒマが潰れたりする。

A standard Dictionary of this kind. I speak several languages of Europe so sometimes I maniacally search many dictionaries including this one.

2012年11月18日日曜日

Stephen Mumford "Metaphysics: A Very Short Introduction"

ISBN-13: 978-0199657124

Oxford Univ Pr(2012/9/8)

形而上学の入門書。いきなり「テーブルとは何か」から始まる。唯名論と実在論とか、空間の最小単位とか、時間の流れる速度とか、物体は延長と不貫入性を持つとか、不在は原因たり得るのかとか、同一人物の定義とか、形而上学の定番の問題がぞろぞろ解説される。言っていることは特に難解でもないので、高校生でも理解できると思われる。

問題は、こういうことを子細に考察して何の役に立つのかというところだろう。おそらく、「面白いからそんなのはどうでも良い」という人種でないと、こういう研究はできないが、一応著者も最終章で弁護を試みており、わたしはあまり同意ではない・・・。個人的には、どちらかというと、こういうのは現実の仕組みというより人間の思考の仕組みを調べているというカントの説に賛成だ。もっとも、現実と人間の思考をそんな明快に区別できるとは思わないが。この本に限らず西洋哲学全般に「個人の内面に与えられるもの」を絶対視することにより、本質的に独我論的であり、外界と個人を接続するのに必ず神が必要になる。そういえば、この本で独我論が取り上げられないのは示唆的ではあるまいか。わたしとしては、ヴィトゲンシュタインとデリダで終わっている。まあそこまで大きく考えなくても、一体何が問題で、それが何に還元されたら解決ということになるのか、ということについては意識的に考えながら読んだほうが良い。

それはそれとして、この著者の眼中にないようだが、形而上学には少なくとも一つ実用性があった。つまり、情報科学である。多少とも情報科学を学んだことがあれば、「モナド」とか「アフォーダンス」とか「オントロジー」とか形而上学用語を聞いたことがあるはずで、つまり、プログラムには世界を写し取るという面があり、特に言語理論や人工知能の研究は形而上学から様々な示唆を受けているのであった。SEのための数学とかSEのための会計学とか適当な本が多いが、そういうことならSEのための形而上学という本も執筆されるべきなのだ。

Easy to read for beginners. Typical topics in metaphysics are introduced and readers are invited to think themselves. In the last chapter the author tries to defend the value of metaphysics, which I do not totally agree. It is not mentioned in this book though, metaphysics is useful at least in one industrial area: information science. I want to read a book with a title, for example, "Metaphysics for AI".

2012年11月14日水曜日

Mignon Fogarty "Grammar Girl's 101 Misused Words You'll Never Confuse Again"

間違いやすい単語を101集めたもの。と言っても、アメリカ人が間違いやすいだけで、日本人が間違いやすいとは限らない。たとえば、heroinとheroineは日本人でも間違えるかもしれないが、setとsitを間違える日本人がいるとは思えない。hilariousとhystericalみたいに別にどうでもいい気がするのもあり。GorillaとGuerrillaとなると、ふざけているとしか思えないが、そんな風でもないので、もしかしたらマジなのかもしれない。一項目あたりが短いし、大学一年生くらいでも英語学習として気軽に読めそうだ。何より安い。

A collection of short explanations about confusing words. Easy to read even for foreigners. Though these words are confusing for Americans, not necessarily for foreigners.

2012年11月12日月曜日

Douglas Adams "The Hitchhiker's Guide to the Galaxy"

SFファンでもない他人に一冊だけ古典的SFを勧める段になって、堅いのは"The Door into Summer"と思っているが、これもアリかもしれない。コメディだが、古くなっていない。わたしは最初この本をオーディオで少し聞いて、「カブト虫のジュース」という単語を覚えた。

A classic SF. Hilarious. I listened to an audio edition first and learned that there is juice of beetles.

2012年11月10日土曜日

Alain Bauer, Jean-Louis Bruguière "Les 100 mots du terrorisme"

フランス語。読んでて鬱になるが、100語でわかるテロリスムというところで、日本語訳すれば売れると思う。やはりテロというのはフランス語やスペイン語でやるものなのだろう。つまり、その辺が宗主国というか元凶なのである。基本的には少数民族・共産党・イスラム教の仕業で、日本からはオウム真理教がエントリー。毒ガステロは、その後出てこないが、テロリストとしてオウムの科学力は群を抜いていたらしい。しかし、欧米に比べれば、日本はのんきなものだ。テロといっても色々なパターンがあり、「そんなんで社会が変わるわけないだろ」というような、原理主義とかオウムとかみたいなテロもあるが、現実に国家主権を排除して地域を支配している集団もある。個人名も結構挙がっているが、目的なんかどうでもよくて、単に職業としてテロリストみたいなのも多い。日本人が読むと、結構、常識を覆されるのかもしれない。

Au Japon il n'y a pas beaucoup de terrorisme. Aum sinrikyo était une exéption notable. Peut-être que la France et l'Éspagna sont les pays origines.

2012年11月9日金曜日

Theresa Neil "Mobile Design Pattern Gallery"

ISBN-13: 978-1449314323

スマホ用の画面デザイン集。この類の本の通例として当たり前のことしか書いていないが、既知のパターンの分類標本展ということで、状況の整理と語彙の提供という点に意義がある。似たような本は他にもあるのかも知れないが、出版社の力があるので、これが当面標準ということになるだろう。従って開発側にいる人は必ず目を通しておいた方がよい。

Does not provide novel ideas. Just a standard classification system and standard controlled vocabulary. A must-have for everyone in this area.

2012年11月8日木曜日

June Casagrande "Grammar Snobs Are Great Big Meanies: A Guide to Language for Fun and Spite"

この超重要な本を紹介するのを忘れていた。この本が日本であまり読まれていないようなのは、けしからん。一通り英語の文法に自信があって、TOEICで満点を取れるくらいなら、一度この本は読んだ方が良い。要は、英語の世界でも日本語の世界における「正しい日本語」と同様に、「正しい英語」というのにやたら口うるさい人がいるものだが、この本はそういう人をバカにする本。Strunk & Whiteだとか、"The Chicago Manual of Style"だとか、Swanだとか、他にもその手の「正しい英語マニュアル」はいっぱいあるが、そんなものを読む前に、まずこの本を読むべきだ。この本は、その手のマニュアルをすべて比較対照して、相互の不一致とかも一々指摘している。この本を読んだ後で、それでもマニュアルに拘るのなら、もう止めない。

タイトルから明らかなように、著者は英文法に関してはかなり寛容で、「問題な英語」みたいな例について、「別にどっちでもええやん」みたいなことを言う傾向がある。わたしも、「正しい日本語」みたいな本にムカつく傾向があるので、外国人だが、わたしはこの著者を断固支持する。ただし、この著者はこの著者でかなり性格が悪いので、イヤな人はイヤかも知れない。続編とも言うべき"Mortal Syntax"も、パワーは落ちるが、やはり面白い。もとが新聞のコラムだから、英語も簡単で読むのが楽。

I am not a native speaker of English. Still I find this book very fascinating. There are lots of similar grammar snobs of Japanese language. And I am not a strict type, either.

Nancy Duarte "Resonate: Present Visual Stories that Transform Audiences"

評判だし、プレゼンをする機会がないこともないので読んでみたが、こういう本にしては多分良い部類なんだろう。この本の言うプレゼンは営業的な意味合いが強く、従って感情の煽り方が重視されており、聴衆の思考力には期待していない。巧言令色みたいなニュアンスが付きまとうのは避けられず、そこに引っかかる人はこんな本は読めない。ただし、他人のプレゼンを冷たく裏読みするのには役に立つというような・・・。

それにしても、たとえば、聴衆の気を引くために数字を出すという手法があるが、「毎日x人が死んでいます」みたいな数字は、「またこのパターンか」くらいで記憶に残ったためしがない。いかにも「プレゼンの手法を勉強した人」みたいな印象は受けるし、それこそが重要ということもあり得るが。ゴミの排出量を東京ドームで表すなら、埋立地やゴミ処理場の能力も東京ドームで表してもらわないと意味が分からない。早い話が、流暢なプレゼンを心地よく聴いて後に何も残らないより、多少、客に頭を使わせたほうが良いこともあるんじゃないかね。

細かい話はキリがないが、この本の最大の欠点は、この本自体がプレゼンとして面白く無さ過ぎるということだった。ただ、アメリカでも評判みたいなので、社内社外の営業活動をする人は読んで損はなさそうだ。大学で講義するとかいうことだと、多分あまり参考にならない。

Rumor has it that this is the best book of its kind. I seldom read this sort of book. I can only say that this book itsself is rather boring.