夢に関する脳科学的知見の解説。わたしにとってはなかなか衝撃的だったが・・・。だいたい、こういうタイトルだと、夢に関する精神分析とか、夢の文化誌とか、その類の人文学になってしまい、興味もなかったが、同じくVSIの"Sleep"(これも名著)で言及されていたので、興味を持っただけ。
この本は一貫して、医学的知見から「夢の形式」を解明している。すなわち、睡眠中は、覚醒時よりも激しく活動している脳の部位と、機能を停止している脳の部位がはっきりしている。たとえば、感覚や運動に関する領域は激しく活動している。ただし、実際の感覚器官からの入力や、実際の運動器官への出力は禁じられている。連想に関する領域も強く活動している。情動に関する部位は激しく活動しているが、論理的思考や反省を司る部位は機能していない。長期記憶へのアクセスは可能だが、短期記憶へはアクセスできないので、ほとんどの夢は忘れられる。等々で、これは脳内化学物質の変化でもはっきりしている。これらの脳科学的所見から、夢に見られる特徴、たとえば、強い感情とか、場所や時間意識や反省意識の消失とか、やたら昔のことを思い出すとか、その他さまざまな特長が説明される。
そんなわけで、精神分析をはじめとして、夢の内容に関する研究に対する敵意が半端でない。夢をほとんど忘れるのは、フロイトが想定したような超自我による抑圧のせいではなく、単に睡眠中には記憶に必要な化学物質が脳内にないからである。夢の内容は超自我による抑圧のせいで変形されているのではなく、むしろ脳の一部領域の活動がそのまま表出されているだけであり、いかなる解釈も必要ではない云々。
つまり、睡眠は脳のメンテナンスモードであり、夢はその副産物に過ぎない。夢の内容をいくら研究しても、それは妄想にしかならない。むしろ夢の形式的特徴、たとえば、物事の同一性が簡単に無視されるとか、状況に対する吟味や注意力の維持がないとか、時間や空間の連続性の無視とかに注目し、それらと脳の各領域の機能を照合していくことにより、脳科学が進歩して行く。覚醒時に学習した内容が睡眠中に整理されて定着していくという理論は既に確立している。
普通の科学的な考え方としか思えないが、改めて考えると、夢に関する研究で、こんな当たり前の説は読んだことがなかった。意識だとかクオリアだとかいう問題については、また色々な考え方もあると思うが、その件については別に論じればいいだろう。意識が脳の状態に依存しているのは明白だし、著者が言う通り、問題なんかないのかもしれない。
In hindsight, the author's way of thinking on dream is quite normal and obvious. Hobson explains why we are so crazy while we are sleeping by way of medical research on brain. For example, we are so illogical in dream because the part of the brain which dictate logical thinking is sleeping. We do not remember what we dreamed because chemicals necessary for short-term memory are absent while we are sleeping. Very simple. Freudian interpretation is misguided because of lack of scientific knowledge about brain. I wonder why I have never come across this kind of simple scientific theory on dream before. Maybe people prefer stories than fragmented long-term memories, just we all are in the dreams.