2021年7月30日金曜日

Marcel Pochard "Les 100 mots de la fonction publique" [公務の100語]

書名からは分かりにくいが、要するにフランスの公務員制度に関する概説だ。労働者の権利とかキャリアプランとか、かなり良くできていて実用的な本だと思うけど、普通の人にアピールするような本でもないし、わたしも業務の絡みがなければ手にも取らないところだったと思う。こんなのがQue sais-je?に入る前提として、そもそもフランスが公務員の多い国だということがある。統計の取り方にもよるが、フランス人が良く言っていたのは労働者の三割程度が公務員、どんな統計でも少なくとも20%は越えている。というわけで、こんな本も売れるわけだ。どこの国もそうだが、公務員は比較的教育水準が高いので、本も読むんだろう。

逆に日本の公務員の数が極端に少ない国で、しかもさらに減らせと言っているようなことだが、本当はこういう本でも読んで外国の例を参考にすればいい。別に公務員に限らずフランスは労働者の権利が日本なんかより遥かに守られており、労働時間も短く、もちろんストライキなども多いが、別にフランス人の生産性が日本人より低いわけでもないし、何より出生率が全然高い。この本を翻訳しても冊数的には売れないかもしれないが、間違いなく社会貢献にはなると思う。

Trés utile pour le pays où il y a peu de fonctionnaires comme le Japon....

QUE SAIS JE (20 janvier 2021)
Langue:Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2715405554

2021年7月29日木曜日

Denis Salas "Les 100 mots de la justice" [司法の100語]

業務的に微妙にフランス法に関わっているので読んでみたが、別にこれで入門できるわけではなく、門外漢向けの教養読み物みたいに割り切っているのがQue sais-jeがVSIと違うところだ。仕事でもなければ手にも取らない本だが、"Parabole du douzième chameau"の冒頭だけ翻訳してみる。

12頭目のラクダの寓話
死期が近いことを感じた父は相続を確定することにした。11頭のラクダを三人の息子に分けなければならない。長男は遺産の半分を受け取り、次男は1/4を受け取り、三男は1/6を受け取ることになった。父の死後、分割が数学的に不可能であることが分かった。息子たちは案件をカーディ(イスラム法の裁判官)の元に持ち込んだ。少し考えた後、カーディは言った。「わたしのラクダを1頭連れて行って、遺産の分割が終わったら返してください」。息子たちは12頭のラクダなら分割が可能(長男が6頭、次男が3頭、三男が2頭)なことに直ぐに気が付き、直ちに12頭目のラクダを返した。

この話、なんか子供の頃に読んだことがあるような気もする。本書ではこの件についてクリエイティブな司法だとか何だとか情緒的な話をしている。本書にはこの他に寓話として"Sentence du juge Ooka"(裁判官大岡の判決)も取り上げられていて裁判官も社会の一員だのなんだのと。そんなわけで、元々日本とフランスでそんなに法体系が違うわけでもないので、フランス語ができるがフランス法に深入りする必要のない法学部の学生などが読むには良いが、そんな人はほとんどいないだろうな…。もちろん、リアルにフランスに住むとかフランスと交易するとかいうようなことで真剣にフランス法を学ぶのなら、こんなものを読んでいる場合ではない。あと、どうでもいいけど、OokaじゃなくてOookaにしないのかね。

Ce livre n'est pas très pratique, mais assez intéressant.

PUF(2018/1/1)
言語:フランス語
ISBN-13:978-2130809685

2021年7月26日月曜日

Bertrand Russell "The Conquest of Happiness" [幸福の獲得]

いわゆる幸福論。数理論理学者でありノーベル文学賞受賞者でもあるラッセルの大量の著作の中で最も読まれているものだろう。中心的な主張は「自分のことを考えれば考えるほど不幸になる」というところだと思う。実践的なアドバイスもあるが、概ね良識的で変に極端な思想はない。そこが詰まらないというのも分かるが、本人も言っている通り、真実は斬新であるとは限らない。書かれた時代の制約もあるし、ラッセル自身の偏見もあるが、そんなことも考えながら読んで損はないだろう。そもそもが常識的な処方箋が展開されているだけで、衝撃を受けるような著作ではない。わたしも別にラッセルを崇拝しているわけではないが、退屈はしなかった。

内容はそんなこととして、ラッセルの文章はある程度以上の高校生なら大学入試対策の英文解釈という枠で今でも結構読まされていると思う。模範的な英文で読みにくくもない。当時でも易しい文章を書く人だと思っていて自主的に大量に読んでいた。そういうノスタルジーも含めて読む人も多そうだ。

Writings of Russell are treated as examplary English and often utilized for educational purposes, particulary in higher educations. Very practical, isn't it?

Routledge(2015/8/27)
言語:英語 ISBN-13:978-1138127227

2021年7月6日火曜日

Paul Engel "Enzymes: A Very Short Introduction" [酵素:非常に短い入門]

目次:1.酵素なくして生命なし 2.物事を起こすもの-触媒 3.酵素の化学的性質 4.触媒の構造 5.酵素の働き 6.代謝経路と酵素の進化 7.酵素と病気 8.道具としての酵素 9.酵素と遺伝子-新たな地平

大きく三部くらいの構成で、最初の部分は化学的な説明。単純な化学触媒の説明から出発しているが、すぐに複雑さのレベルが違うことが判明する。たとえば、一体どういう原理で特定の酵素がDNA分子の特定の部分を切断できるのか一般人向けに説明されていることはほとんどないが、この本では、一応原子レベルで何が起こっているのか説明されている。第二の部分は生物学的な部分で、これも、たとえば物を食べるとタンパク質を分解する酵素が分泌されてみたいな説明が、一応分子レベルまで見えるような気がしてくる。高校生物くらいだと、外敵が侵入すると免疫細胞が出動してみたいな擬人化されたような説明になっているところ、そんなのでは納得できないというようなムキには、とっかかりにはなるかもしれない。第三の部分は工学的な応用で洗剤に使う酵素もあるし、最近流行のPCRの説明もある。この本の執筆時点はレムデシビルが有効かもとかいう時期みたいだが…。

それほど分かりやすい本でもないが、対象自体がもともと高校レベルを越えているので仕方がない。とにかく先端医学とか生物工学とかいうような分野も、根本的には酵素反応なわけで、この本みたいに、擬人化した説明を越えてくる本は少ないのではないかと思う。

An introduction to enzyme reaction engineering, which is a fundamental block of vast range of fields.

Oxford Univ Pr (2020/12/2)
言語:英語
ISBN:978-0198824985