関ヶ原の合戦から現在までの日本の歴史。特に日本人のアイデンティティ、ナショナリズムと、「西洋」「近代」との軋轢を描く。Page-turnerとまでは言わないが、一気読みしてしまった。
普通の高校生であれば、事実として知らないことは多分ほとんど書いていない。歴史の教科書は瑣末な事項ばかりで読み物になっていないから読む気がしない。かといって、「日本の通史」みたいな本は、右翼だったり左翼だったり、どっちにしろ晦渋な本ばかりでうんざりする。その点、この本は何気ない。
わたしの場合は、外国からやってくる日本研究者の接待があるので、参考までに読もうと思っただけ。世の中には「英語で日本を説明する本」みたいなものはいくらでもあるが、ああいうのは、日本の歴史教科書をそのまま英語に直したようなもので、有用かもしれないが、それ自体は読んでも楽しくない。
この本の内容としては、ペリー来航以降、日本人のアイデンティティが、常に「西洋」・「近代」との戦いだったことが描かれる。んで、いろいろあって太平洋戦争になり、敗戦で傷つき、ノスタルジックな川端康成とか極右の三島由紀夫が出たり、いまだに戦争の謝罪だの靖国で揉めているのも、傷ついた自己イメージみたいなことで解釈できると。岸田秀とかが言及されているだけでも頭が痛い。最後のほうはこばやしよしのりとか田母神とかまで出てきて、つまり、この著者の真の興味はそのあたりなんだろう。特にウヨクな人は、読んでいて腹を立てる可能性が高いが、この本は権威あるOxford大学出版局から出ており、しかも売れ線であるから、腹を立てるためにだけでも読んだほうがいい。
わたしとしては、太平洋戦争は単なる石油の取り合いとしか思っておらず、特に今時の日本人にとって、「日本人とは何か」という問いがそんなに重要な気がしない。確かに明治の知識人の書いたものとか、太平洋戦争の頃のアジテーションとかを考えると、確かに「日本人のアイデンティティ」みたいなことが大問題のような印象はあるけど、一部の知識人とかウヨクが勝手に苦悩しているだけで、歴史を動かすほどの問題の気がしない。しかし、まあ、話としては面白かった。
2010年10月28日木曜日
2010年10月22日金曜日
Raymond Wacks "Philosophy of Law" (Oxford Very Short Introductions)
こういうタイトルだと、極端な例を持ち出して「君はどう考えるか」みたいな本が増えている今日この頃、これは伝統的な法哲学の学説史。非常に薄いので、一つ一つの学者に関しては、端折過ぎの気がするし、これで分かった気になられてはたまらないとも思うけど、入門者にはこんなものかもしれない。
「著者が自分の見解を抑えている」というようなレビューもあるけど、本当に読んだのかと思う。かなりはっきりした価値評価をしているが、普通の主流派の判断なので、普通の人は流してしまうのかもしれない。ヴェーバー・デュルケム・ハバマスあたりを数ページで解説しようとするのもなかなかだが、最後のほうはフーコーとかラカンとかデリダまで超簡単に紹介して、結論としては「ほとんど法の理解に役に立たない」みたいな。じゃあ最初から書くなよと言いたいけど、アングロアメリカの法哲学界も、一時期ポストモダンの流行に巻き込まれてうんざりしたのだろう。・・・というようなことからも分かるように、「薄く広く」という本なので、ある意味頭を使わなくても読めるということはある。
「著者が自分の見解を抑えている」というようなレビューもあるけど、本当に読んだのかと思う。かなりはっきりした価値評価をしているが、普通の主流派の判断なので、普通の人は流してしまうのかもしれない。ヴェーバー・デュルケム・ハバマスあたりを数ページで解説しようとするのもなかなかだが、最後のほうはフーコーとかラカンとかデリダまで超簡単に紹介して、結論としては「ほとんど法の理解に役に立たない」みたいな。じゃあ最初から書くなよと言いたいけど、アングロアメリカの法哲学界も、一時期ポストモダンの流行に巻き込まれてうんざりしたのだろう。・・・というようなことからも分かるように、「薄く広く」という本なので、ある意味頭を使わなくても読めるということはある。
ラベル:
Very Short Introduction,
法律
2010年10月13日水曜日
Ken Binmore "Game Theory" (Oxford Very Short Introductions)
ゲーム理論については一通り勉強したことがあるし、今さら概説書を読んでも得る物もないだろうと思っていたが、書評が「素晴らしい」と「難し過ぎて意味が分からん」の二つに割れているようで、面白そうなので読んでみた。
わたしの感想としては、素晴らしい。研究に必要な数学は省かれているが、ゲーム理論の含意を知るのにそこは重要ではない。たいていの人は、ゲーム理論と言えば「囚人のジレンマ」とか「ナッシュ均衡」くらいの知識で止まっていて、面白い寓話ですね、くらいではないだろうか。この本では、それは入口に過ぎない。他に様々なゲームを検討していて、様々な社会的・生物学的現象をモデル化していく。「そんなのは所詮は現実を極端に単純化した玩具で、現実の社会はもっと不合理な道徳感情などによって支えられている」というのが普通の社会学者の言い分だと思うけど、この本を読むともう一度考え直したくなる。
わたしの理解が正しければ、この著者は、「ナッシュ均衡でない道徳制度や社会制度は長続きしない」と考えている。ホッブズは「万人の万人に対する闘争」を解決するために国家権力が必要だと考えた。それでいいとして、それによって出現する均衡状態はナッシュ均衡だけで説明できるのか、それとも人類学者や社会学者が考えるように、何か不条理な宗教的畏怖や権威の概念が必要なのか。むしろ宗教や感情はナッシュ均衡の作り出す幻ではないのか。わたしには何とも言えないが、この方向を追求する価値はあると思うのだが。
最後のほうでは、ゲームが成り立つ基礎みたいなことまで研究していて、ほとんどヴィトゲンシュタインみたいなことになっている。一般的なゲームの他にも、オークションや「利己的遺伝子」の話などもあって、面白い話が盛りだくさんだ。ただ、確かに、頭を使わないで読める本ではない。著者は明らかに楽しんで書いているし、わたしも、この楽しさを共有できる人が多いといいなあと思う。難しいという人が多いのも事実だが、わたしのこの書評をここまで読んでくれた人なら、問題なく読めるだろう。
わたしの感想としては、素晴らしい。研究に必要な数学は省かれているが、ゲーム理論の含意を知るのにそこは重要ではない。たいていの人は、ゲーム理論と言えば「囚人のジレンマ」とか「ナッシュ均衡」くらいの知識で止まっていて、面白い寓話ですね、くらいではないだろうか。この本では、それは入口に過ぎない。他に様々なゲームを検討していて、様々な社会的・生物学的現象をモデル化していく。「そんなのは所詮は現実を極端に単純化した玩具で、現実の社会はもっと不合理な道徳感情などによって支えられている」というのが普通の社会学者の言い分だと思うけど、この本を読むともう一度考え直したくなる。
わたしの理解が正しければ、この著者は、「ナッシュ均衡でない道徳制度や社会制度は長続きしない」と考えている。ホッブズは「万人の万人に対する闘争」を解決するために国家権力が必要だと考えた。それでいいとして、それによって出現する均衡状態はナッシュ均衡だけで説明できるのか、それとも人類学者や社会学者が考えるように、何か不条理な宗教的畏怖や権威の概念が必要なのか。むしろ宗教や感情はナッシュ均衡の作り出す幻ではないのか。わたしには何とも言えないが、この方向を追求する価値はあると思うのだが。
最後のほうでは、ゲームが成り立つ基礎みたいなことまで研究していて、ほとんどヴィトゲンシュタインみたいなことになっている。一般的なゲームの他にも、オークションや「利己的遺伝子」の話などもあって、面白い話が盛りだくさんだ。ただ、確かに、頭を使わないで読める本ではない。著者は明らかに楽しんで書いているし、わたしも、この楽しさを共有できる人が多いといいなあと思う。難しいという人が多いのも事実だが、わたしのこの書評をここまで読んでくれた人なら、問題なく読めるだろう。
ラベル:
Very Short Introduction,
社会学,
数学
2010年10月12日火曜日
Tom Rath "Strengths Finder 2.0"
主張としては「弱点の克服に時間を使うよりは長所を伸ばしたほうがいい」というようなことだけど、この本自体は本体ではない。本体はWeb上の自己診断テストで、それでタイプ分類が出るから、自分に関係するところだけ読めばいいようになっている。よくある「適性診断テスト」みたいな物の、デラックス版と思って良い。「あなたに向いている職業は~」みたいな話のほか、色々なアドバイスが出て来る。アクセスコードは本に付属。
テストは余裕で三十分くらいかかる。わたしは英語で受けたけど、日本語でもOKなようだ。わたしの結果は、Ideation, Maximizer, Analytical, Deliberative, Futuristicだった。もともと自己申告だから、星占いみたいに意外な結果が出たりはしない。そして、自己イメージに沿って褒め称えてくれるので気分が良い。こんなので喜んでいるのもどうかと思うが、星占いと同様に話のタネになるし、多分大間違いでもないだろう。自信喪失気味で、しばらく人に褒めてもらっていない人などにお薦めだ。
テストは余裕で三十分くらいかかる。わたしは英語で受けたけど、日本語でもOKなようだ。わたしの結果は、Ideation, Maximizer, Analytical, Deliberative, Futuristicだった。もともと自己申告だから、星占いみたいに意外な結果が出たりはしない。そして、自己イメージに沿って褒め称えてくれるので気分が良い。こんなので喜んでいるのもどうかと思うが、星占いと同様に話のタネになるし、多分大間違いでもないだろう。自信喪失気味で、しばらく人に褒めてもらっていない人などにお薦めだ。
2010年10月9日土曜日
Robert A. Heinlein "The Door into Summer"
これ読んだのは相当昔だけど、急に思い出したので紹介する。今まで読んだ小説の中では、多分五本の指に入るだろう。わたしは基本的に復讐話が好きだ。もっとも、これは結局はあんまり復讐ではないんだけど。SFだけど、そんなに難しくもないし、普段SFを読まない人でも楽しく読めると思う。恋愛小説という説もあるが、その辺りはわたしはあんまり反応していない。けど、そういう楽しみ方もあるんだろう。猫小説という分類も有り得る。
2010年10月7日木曜日
Stephen Hawking, Leonard Mlodinow "The Grand Design"
ホーキング博士の最新刊。宇宙論という分野は、進歩が激しいというか情報爆発みたいな感じで、専門家ですら最新の情勢についていくのが大変らしいが、そこでホーキング博士みたいな人が書いてくれると話が早い。例によって一々神の非存在を論じていてうんざりするが、間違いなく本人が書いているというようなことで。
半分以上が、ギリシアの叡知をキリスト教が抑圧したとかいう世界観と、量子力学と相対論のよくある概説みたいなので占められている。本題はそこから先で、M-theoryと言う理論(群)を推してくるが、最終的にはライフゲームみたいなもので、単純な規則から見かけ上複雑な状況も作れるということらしい。まあ、昔から「宇宙のすべては単純なアルゴリズムの反復で生成できる」みたいな主張をする人はいるわけで、ホーキングはそこまで野心的ではないが、とにかく、「宇宙の存在を説明するのに、神は不要」ということがひたすら強調されていて、多分、普通の日本人には、そこまで必死になる理由が分からないんじゃないかと思う。
と思ってタイトルを見なおすと"The Grand Design"というのは、キリスト教系の"intelligent design"論に対抗する意味のようだ。日本語に翻訳しても、あんまり売れないかなあ。
半分以上が、ギリシアの叡知をキリスト教が抑圧したとかいう世界観と、量子力学と相対論のよくある概説みたいなので占められている。本題はそこから先で、M-theoryと言う理論(群)を推してくるが、最終的にはライフゲームみたいなもので、単純な規則から見かけ上複雑な状況も作れるということらしい。まあ、昔から「宇宙のすべては単純なアルゴリズムの反復で生成できる」みたいな主張をする人はいるわけで、ホーキングはそこまで野心的ではないが、とにかく、「宇宙の存在を説明するのに、神は不要」ということがひたすら強調されていて、多分、普通の日本人には、そこまで必死になる理由が分からないんじゃないかと思う。
と思ってタイトルを見なおすと"The Grand Design"というのは、キリスト教系の"intelligent design"論に対抗する意味のようだ。日本語に翻訳しても、あんまり売れないかなあ。
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