2025年12月4日木曜日

James Binney "Entropy: A Very Short Introduction" [エントロピー:非常に短い入門]

Entropy (Amazon.co.jp)

<目次> 1: 混乱の時代 2: 熱力学の到来 3: エントロピーとエネルギー変換 4: エントロピーの力学 5: 最大エントロピー原理 6: 画像の再構築 7: エントロピーと量子力学 8: エントロピーと重力 9: 終了

最初のうちは熱素による熱力学を説いていて、この時点で既に大学レベルの熱力学を理解していないと何を言っているのか多分分からない。わたしが理解している熱力学はエネルギー収支が中心だったが、ここではエントロピーを中心に編成しなおしている感じ。それはそれで数学的には分かる話だ。最大エントロピー原理などと言っているが、実際には既に統計力学も分かっていないと読み進めるのは厳しいだろう。中盤では情報科学に自然に移行するが、ここで情報科学でいうエントロピーが物理学から導入されていることが語られる。要は情報科学側の「無知の度合い」が量子力学側の不確定性原理と対応しているとかいう周辺の話で、アナロジーが成立するための根拠の数学を理解している必要がある。最後はこの手の話の定番かもしれないがボーズ・アインシュタイン凝縮やらシュヴァルツシルト半径内のエントロピーを計算したりしている。

というわけで、対象読者が不明である。だいたい大学レベルの物理学・情報科学を修了していないと厳しい読み物の気がする。要するに「既に理解している人にしか理解できない」という類の本に見える。その意味ではこれまで数百冊読んだVSIのなかで最も高度と言えるかもしれないが…。

そもそもなぜこんな本が企画されたのを考えると、近頃環境問題だとかでやたら熱力学の第二法則とかエントロピーという言葉が濫用されているので、と言う趣旨だと思われる。その件は最後のほうに申し訳程度に書かれているが、著者はそんなことより純粋に数学をいじっているのが好きなようだ。数式は全然避けられていない。冷静に読み返すと、普通に熱力学とエントロピーの標準的な大学の講義を早足で進めただけのような気もするし、そういう勉強/授業をしている人には参考になる本かもしれない。

Oxford Univ Pr (2025/12/29)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198901488

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