2025年12月18日木曜日

Morgan Housel "The Art of Spending Money" [金を使う技術]

 The Art of Spending Money (Amazon.co.jp)

アート・オブ・スペンディングマネー (Amazon.co.jp)

"The Psychology of Money"の続編ということだが、内容の大半は「見栄を張るな」にほぼ尽きている。自分はそんなのは大丈夫と思っていても、人は意外に他人に影響されているもので、自分だけは例外とは思わず、謙虚に読んでいいのではなかろうか。色々面白い話はある。

と言っても、やはりわたし個人については例外らしい。虚栄心がどうこう以前に、第一にわたしには見栄を張って得をする状況がほとんどない。自分が出世の見込みのある勤め人だったり、自営業だったら、見栄を張るほうが得というか見栄を張らないといけない局面もあるだろう。異性にモテたいと思う場合もそうかもしれないが、わたしの人生にそんな局面がない。第二にそもそも見栄を張る相手がいない。

わたし個人の話はさておき、誇示的消費で愛情や尊敬はある程度買えるが、著しく非効率な最後の手段と考えるべきで、愛情や尊敬はまずは別の入手方法を考えたほうがいい云々。誇示的消費自体のリスクもある。もともとあまり期待して読み始めていないが、いくつか面白い話もあることはあった。

最後に、結局こういう本は「こういうのが幸せでしょ」という前提が明示的にか暗示的にか存在し、そこに同意できるかどうかが決め手になる。この本も例外でなく、同意しかねる前提が凄まじく多い。明示的な話で言えば、「後悔を最小にする」とか「人生の目的は思い出作り」みたいな話には付き合いかねる。まあそれはそれとして、という余裕を持って読める人にしかお勧めできない。

出版社 ‏ : ‎ Harriman House Publishing; Main Market版 (2025/10/7)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1804091890

2025年12月12日金曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #20: Partypooper" [軟弱な子供の日記#20:パーティー潰し]

ここまで全部読んできているが、誕生パーティーという、これまででわたしに最も縁のない世界が背景になっている。わたしがそもそも誕生パーティーというものの経験がほぼないというのもあるが、経験のある人でも、日本の風習とかなりかけ離れているのではないだろうか。だからこそ読む価値があるとは言えるが…。

話のきっかけは①家族が主人公の誕生日を忘れていたことがSNSで拡散されて炎上②プリントミスのゲームカードに高値が付いてweb上で捜索班が結成される…というところまでは縁が無くても一応理解できるが、③だから主人公の誕生日パーティーを企画するというのは、あまり普通の考え方ではない。で、どうも主人公の家にはまあまあの相当な広さの芝生があるらしく…というあたりから、話の内容よりも背景の考察に思考力を取られる。

もともと主人公の家が、少なくともわたしの基準ではあまりに裕福な暮らしをしており、この時点で想像力を使わされているところがある。勉強にはなったが話自体は低調だった。

Puffin (2025/10/21)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0241745168

2025年12月9日火曜日

Nick Maggiulli "The Wealth Ladder" [富の階梯]

The Wealth Ladder (Amazon.co.jp)

THE WEALTH LADDER 富の階段 (Amazon.co.jp)

個人資産の額によつて、さらにファイナンシャルプラン(というかさらに金持ちになる方法)が違うというのが中心的な主張だ。

  1. 資産1万ドル未満…余裕がない。とにかく働け。
  2. 1万ドル~10万ドル…食品について自由になる。教育訓練を受けろ。
  3. 10万ドル~100万ドル…外食について自由になる。投資せよ。
  4. 100万ドル~1000万ドル…旅行について自由になる。起業せよ。
  5. 1000万ドル~1億ドル…住居について自由になる。事業を拡大せよ。
  6. 1億ドル以上…他人の人生に介入できる。守れ。
内容はこれだけではないし、この区分を導入しただけでも功績だが、正直なところ具体的な中身は薄くてあまりお勧めする気がしない。致命的なのは、この本のかなりの部分が統計を論じているが、その統計の扱い方が疑わし過ぎる。結果的に言っていることはそんなに間違っていない気もするし、著者の金銭哲学は聞いてもいいと思うが、話半分でいいだろう。

わたし個人としては、近いうちにFIREというか無職になるし、一応FP2の資格も持っているので、こういう本も読んでおくかというところ。一般論として間違ったアドバイスは書いていないと思う。しかし、もうこの類の本は良いかなという感じになってきた。

Portfolio (2025/7/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0593854037

2025年12月4日木曜日

James Binney "Entropy: A Very Short Introduction" [エントロピー:非常に短い入門]

Entropy (Amazon.co.jp)

<目次> 1: 混乱の時代 2: 熱力学の到来 3: エントロピーとエネルギー変換 4: エントロピーの力学 5: 最大エントロピー原理 6: 画像の再構築 7: エントロピーと量子力学 8: エントロピーと重力 9: 終了

最初のうちは熱素による熱力学を説いていて、この時点で既に大学レベルの熱力学を理解していないと何を言っているのか多分分からない。わたしが理解している熱力学はエネルギー収支が中心だったが、ここではエントロピーを中心に編成しなおしている感じ。それはそれで数学的には分かる話だ。最大エントロピー原理などと言っているが、実際には既に統計力学も分かっていないと読み進めるのは厳しいだろう。中盤では情報科学に自然に移行するが、ここで情報科学でいうエントロピーが物理学から導入されていることが語られる。要は情報科学側の「無知の度合い」が量子力学側の不確定性原理と対応しているとかいう周辺の話で、アナロジーが成立するための根拠の数学を理解している必要がある。最後はこの手の話の定番かもしれないがボーズ・アインシュタイン凝縮やらシュヴァルツシルト半径内のエントロピーを計算したりしている。

というわけで、対象読者が不明である。だいたい大学レベルの物理学・情報科学を修了していないと厳しい読み物の気がする。要するに「既に理解している人にしか理解できない」という類の本に見える。その意味ではこれまで数百冊読んだVSIのなかで最も高度と言えるかもしれないが…。

そもそもなぜこんな本が企画されたのを考えると、近頃環境問題だとかでやたら熱力学の第二法則とかエントロピーという言葉が濫用されているので、と言う趣旨だと思われる。その件は最後のほうに申し訳程度に書かれているが、著者はそんなことより純粋に数学をいじっているのが好きなようだ。数式は全然避けられていない。冷静に読み返すと、普通に熱力学とエントロピーの標準的な大学の講義を早足で進めただけのような気もするし、そういう勉強/授業をしている人には参考になる本かもしれない。

Oxford Univ Pr (2025/12/29)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198901488