1.スペイン内戦の起源 2.反乱と革命と抑圧 3.動員と生存:共和国の戦争 4.反乱スペインの成り立ち 5.包囲される共和国 6.勝利と敗北:戦後の戦争 7.歴史の価値
高校の世界史レベルでは、第二次世界大戦におけるスペインの立場が分かりにくい。フランコとかいう独裁者はファシストでヒトラーやムッソリーニと仲が良く、完全に枢軸国側でドイツやイタリアを支援していたが、なぜか法的には中立国ということになっており、ヒトラーとムッソリーニが排除された後も、フランコは普通に独裁を続けていた。で、何かよく分からないうちに民主化されて普通のEU加盟国みたいになっているというような…。スペイン人の話を聞いても、フランス人のレジスタンスの話を聞くようなもので、後から良いように言っているだけのようにも聞こえるし、曖昧な話が多い。日中戦争と同じで、実際の経験者が語りたがらないということが多いらしい。
そこでこの本を読むと、確かに要因が入り組み過ぎていて、誰がどっち側なのか難しい。基本的には共和国vsファシストという認識で、社会主義者・共産主義者・都市労働者は共和国側、農業地帯・カトリック教会はファシスト側と。当然地域差があり、クーデターが起こった直後に軍が掌握したのは基本的に田舎であり、マドリッド他の都会は共和国側。あと独立性の高いバスクなどは共和国側だが、共和国は中央集権を目指すので内部の軋轢がある。ドイツ・イタリアはファシストを支援して、これが戦争の行方を決定する。他方共和国にはソ連がついている。今から考えれば英仏が共和国を支援しないのは意味不明だが、この時期の英仏はなぜかヒトラーに妥協しまくっていて、オーストリアもチェコスロバキアもどんどん呑み込まれている。しかも、内政不干渉とかいう建前で、フランス国境などもほぼ封鎖されており、これではファシストに勝てるはずがない。ファシスト側としては戦争に勝つのは分かっているが、できるだけ戦争を長引かせて赤色分子を殺戮しつくすのがスペイン浄化の為に必要ということで、ゆっくり人を殺していく。結局、ヒトラー体制は打倒されるが、連合国軍の進撃はピレネー山脈で止まり、その後スペインはずっとファシストの支配が続く。
だいたい、歴史を学んでその国のことが好きになることは少ないが、これはなかなか酷い。スペインの場合、話の前提として中南米とアフリカで大量殺戮しているということがある。その巨大な植民地を失って行き場をなくした軍人が、近代化しようとするスペインを過去に引きずり戻した図になっている。当たり前だが、この本は共和国側に同情的な書き方になっており、ずっと悲しい感じで読むことになる。戦後、共和国側の住民は強制収容所や強制労働などに放り込まれて、善良なスペイン人は全員殺されたような印象がある。スターリンのソ連と同じで、近所の人の密告なども恐れないといけないし、当時の人たちが昔のことを語りたがらないのも分かる。孫の代になって実は祖父母が共和国側だったので殺されたことが判明するとかが普通らしい。スペインを脱出した共和国軍軍人がフランスのレジスタンスに参加したりパリ解放とかスターリングラード防衛で戦うとかいうようなエピソードもあるが、大多数のスペイン人のリアルではないだろう。
内戦時の記録は各地の政府の文書館や、カトリック教会の文書館などに残っているらしいが、公開が進んでいないらしい。探ったら誰が誰を殺したとか密告したとかいうことが判明して、やっかいなことになるのだろう。ファシストへのカトリック教会の貢献はこの本でも強調されているが、これも酷い話だ。スペインに旅行することがあったら、その辺りの内戦記念碑的なものばかり見ることになりそうだ。ともあれ、これでヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」を読む準備ができた。
A sad history of Spain.
Oxford Univ Pr (2005/6/23)
英語
ISBN-13: 978-0192803771