2018年6月14日木曜日

Timothy H. Lim "The Dead Sea Scrolls: A Very Short Introduction" [死海文書:非常に短い入門]

目次:1.文化的アイコンとしての死海文書 2.考古学的現場と洞窟 3.文書と断片について 4.ヘブライ語聖書への新しい光 5.正典と真正な書と文書 6.誰が文書を持っていたか? 7.文書収集物の文献的構成 8.第二神殿時代のユダヤの分派 9.死海文書のコミュニティ 10.分派コミュニティの宗教的信念 11.文書と初期キリスト教 12.最も重大な手稿の発見

死海文書というタイトルでは素人向けに胡散臭い本も多いので、これを読むのが最も無難だ。学者からすると相手にするのもバカバカしそうな話も、本書では丁寧に反駁している。かなり読みやすく、ユダヤ教や中東の歴史に詳しくなくても問題ないだろう。クムランの洞窟から見つかった巻物の中には、後世になって旧約聖書に収録される前の状態の文書も含まれており、場合によってはそのせいで伝統的な旧約聖書が訂正されたりしている。文書の内容自体だけでなく、クムランの考古学的研究や一般的なユダヤの歴史も詳しく記述されていて、文献学と歴史学と考古学の融合はとても面白い。別にわたしはユダヤ教にもキリスト教にも思い入れがないが、だからこそ、純粋に娯楽として楽しめるのかもしれない。

念のため、基本的に死海文書はキリスト教(とかいうユダヤ教の分派)より前に、エッセネ派の所有していた文書ということになっており、キリスト教の信仰とは関係がない。ただし、初期キリスト教徒が読んでいた旧約聖書が、今の我々の読んでいる旧約聖書と少し違うとしたら、その限りでキリスト教徒にとっても問題になる。ずっと後のグノーシスの文書みたいな奔放な話もないし、使徒が人類と対立する的な話もなく、ただある時期のユダヤ教の一つの分派の生活や信仰などが解明されるだけだが、一般教養として知っておいていい。なぜ翻訳されないのか不思議だ。

The best introduction to the Dead Sea scrolls.

Oxford Univ Pr; 2版 (2017/5/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198779520

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