目次:1.多言語世界 2.多言語使用を勧める理由 3.多言語使用、神話、論点 4.人々、言語、危険な物 5.個人の多言語使用:一つの心と多数の言語 6.政治、言語、国家 7.アイデンティティと文化 8.共通語、混合、人工言語 9.絶滅危惧言語
社会レベル・個人レベルでひたすら多言語使用を推奨する本。この著者の念頭にあるのは、単一言語環境に生きている単一言語しか話せない人間、要するに英語圏の英語話者なんだろう。
まず、多言語使用がどれほど普通のことであるかが説かれる。本書によると、世界人口の2/3が少なくとも二言語以上を話すらしい。従って、多言語使用が普通であることは、少なくとも世界人口の2/3にとっては周知の事実でしかないが、公用語自体が二言語以上ある国も含め、とにかく大量に例が挙げられる。さらには、こんな有名人もマルチリンガルだとか、マルチリンガルの子供のほうがモノリンガルの子供より学業成績が良いとか、多面的に物事を考えられるとか、果ては就職に有利とか、マルチリンガルの美点が大量に書き連ねられる。もちろん、我々は気分が良いが、モノリンガルの人が読んだら気を悪くしそうだ。
この件については"Translation"もそんな感じだったが、ちょっと引っかかる。もちろんわたしもマルチリンガルであるに越したことはないと思っているし、頑なに日本語とか英語しか話さない・方言すらバカにするような人種はバカにしているが、この本はマイナス面を明らかにdownplayしている。実際、多言語環境で育ってどの言語も十全でなく困っている子供もいるし、身の回りを見てもマルチリンガルを鼻にかけている種類の帰国子女はむしろ学業成績が低い。何より、著者は言語を習得するのに必要な労力について何も言わない。
後半は社会学的な記述が始まり、少しは厳しい現実が語られる。社会的に地位の高い言語も差別される言語もあるし、国家による強制もあるし、使用されている言語の数はどんどん減っている。しかし、ここでも筆者は基本的に明るい面を強調し、アイルランド語の復興とかエスペラントなどを肯定的に見ている。全体的に言えるのは、世界の言語情勢を客観的に解説する本というよりは、多言語使用を煽る本と言える。外国語を学習しようとする人には、良い動機づけになるだろう。個人的には、わたしも筆者にほぼ同意だし、さらには言語統制機関、日本で言えば国語審議会とかNHKアクセント辞典などに何の敬意も持っていないが、Oxford Universityという出版社にしては、煽り要素が強い気がした。
I am afraid that monolingual people would be offended reading this book. If you are a multilingual or are studying foreign languages other than your mother tongue, this book is for you.
Oxford Univ Pr (2017/6/22)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198724995