2017年5月31日水曜日

Barbara Bregstein "Advanced Spanish Step-by-Step" [上級スペイン語一歩ずつ]

目次:1.SerとEstarと現在形 2.SerとEstarの点過去と線過去 3.現在進行形 4.過去進行形 5.接続法現在 6.命令法 7.名詞・冠詞・形容詞・代名詞 8.現在完了形 9.過去完了形 10.未来形 11.過去未来形 12.接続法現在完了 13.接続法過去 14.接続法過去完了 15.慣用句

Easy Spanish Step by Stepの続編で、この二冊でスペイン語文法はほぼ完成と言える。最初のほうは復習から始まるが、基本的にはEasyのほうから始めるべきだ。Easyのほうは半年ほどかかったが、こっちのAdvancedのほうはほぼ二か月で終わった。二冊目が速くなるのは、それまでの知識が応用できるように教材が配置されているからだ。

この二編の本は構成というか順序が非常に優れている。日本語でスペイン語の入門書と言えば、瓜谷先生の「スペイン語の入門」が標準だと思うが、次々に脈絡なく文法事項が出てきて丸暗記させられる感じで、要するに古風である。大学書林の「○○語四週間」的なハードボイルドな勉強法が向いている人もいると思うが、強力な暗記力が必要だ。

このBregstein先生の本は、構成が良い。一例を挙げると、直説法現在の次に過去形より先に接続法現在が出てくるが、非常に理にかなっている。要は-arと-ir/-erの語尾が振り替わるだけだから、全く異質な線過去や点過去より覚えやすいし、直説法現在の復習も兼ねることになる。日本の教科書だと、通常、直説法を全部終えてから接続法に入るが、Barbara先生の方式の方が易しい。それに、スペイン語では、フランス語やドイツ語より接続法が重要だ。あと、日本語より英語のほうがスペイン語に遥かに近いということは、もちろん非常に大きい。

英語圏の他のスペイン語練習本、たとえば"Practice Makes Perfect"なども見たけど、わたしとしては、Bregstein先生のこの二冊が最善だと思う。普通に英語力があるという前提だが(多分スペイン語をやろうと言うくらいなら、この本の英語くらい読めるだろう)、スペイン語を始めるなら第一選択だろう。音声教材がないのは他で補う必要があるが、もともとスペイン語の発音はそれほど難しくない。

With "Easy Spanish Step-by-Step", the best introductory course to the Spanish language.

McGraw-Hill Education (2011/12/28)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0071768733

2017年5月23日火曜日

Russell G. Foster, Leon Kreitzman "Circadian Rhythms: A Very Short Introduction" [サーカディアンリズム:非常に短い入門]

目次:1.サーカディアンリズム:24時間現象 2.一日の内の時間が問題 3.タイミングがズレる時 4.時計に光を当てる 5.分子時計の刻み 6.睡眠:最も明白な24時間のリズム 7.サーカディアンリズムと代謝 8.生活の季節 9.進化と時計への別の見方

概日周期とも訳せるのかも知れないが、生物の体内に組み込まれている生物時計の概説。生物時計は外部刺激(光など)によって調整されはするが、基本的には外界と無関係に(つまり地下などの外部刺激が変わらない状況でも)時を刻み続ける。機械時計の挿話があったりするが、多分筆者が機械時計に関する名著を読んだものと思われ、機械時計と基本的に関係はない。前半は巨視的に人間を含む生物の生活のリズムについて説明していて、人間であれば、夜勤が有害だったり、若者が夜型だったりするというようなことが説かれている。この件に関しては名著"Sleep"も是非併せて読みたい。わたしは超夜型で、今まで生活リズムで散々苦労してきたのがこの本を読んだ最大の動機だ。学校の開始時間を遅らせるような試みは、欧米では既に始まっているが、日本では聞いたこともないし、さっさとこういう知識が日本でも普及することを願う。最近聞かなくなったが、サマータイムなど論外だ。

後半は完全に分子生物学で、普通に高校程度の生物学の知識があれば読めるが、話が非常に複雑なのは覚悟する必要がある。なんでも、分子レベルの話と生物の行動の関係がここまで明らかにされている例はほとんどないらしく、頑張って読んでいくと壮絶に複雑で、どうやって解明したのか理解に苦しむくらいだ。医師の国家試験でもここまでの知識は要求されていないのではないかというような…。しかも、解明したところで複雑過ぎて、これを健康に役立てるとかいう話にはほど遠い。ただ、こんな壮絶に複雑なことがほとんどの生物の中で行われていることに感嘆する。

I wonder if even medical doctors understand these molecular level mechanisms of circadian rhythms.... Complicated, yet fascinating.

Oxford Univ Pr (2017/5/23)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198717683

2017年5月11日木曜日

Richard Passingham "Cognitive Neuroscience: A Very Short Introduction" [認知神経科学:非常に短い入門]

目次と各章で答えられる疑問

  1. 最近の分野
  2. 知覚
    1. 物体を操作するために認識は必要か。
    2. 腕を切断した人が腕の感覚を持ち続けるのはなぜか。
    3. 言葉を読んだり聞いたりする時に色を見る人がいるのはなぜか。
  3. 注意
    1. 脳卒中の後、左側にあるものを無視する患者がいるのはなぜか。
    2. なぜ別のことに注意を向けると痛みが和らぐのか。
    3. なぜ運転中に携帯電話を使うと危険なのか。
  4. 記憶
    1. 記憶喪失になっても学校で学ぶ知識を覚えられるのはなぜか。
    2. 50代になって人の名前を忘れ始めるのはなぜか。
    3. アルツハイマー病の人が道が分からなくなるのはなぜか。
  5. 推論
    1. 種類の違う知的能力が相関するのはなぜか。
    2. 我々は言葉で考えているのか。
    3. 人類はなぜ賢いのか。
  6. 決定
    1. ぼうっとしていて失敗する時があるのはなぜか。
    2. 長期的には有利な報酬より短期的な報酬を選ぶのはなぜか。
    3. 道徳的推論の基礎は何か。
  7. 点検
    1. 自発的な行動が自由であると言えるのはどういう意味か。
    2. 難しい作業をする時にどのように間違いから学べるのか。
    3. 人はどのように他人の意図を推論できるのか。
  8. 行動
    1. 利き手と言語を扱う大脳半球になぜ関係があるのか。
    2. どのようにしてバイオリンの演奏を学べるのか。
    3. なぜ自分自身をくすぐれないのか。
  9. 未来

タイトルから分かりにくいが、上のような疑問に、主に健常者と脳卒中の患者の脳のfMRI画像によって答えていくというシンプルな本である。脳の色んな部位の名前を覚えるのが面倒である以外は、特に難しい話ではないし、何の予備知識もいらない。脳はみんな持っているので、誰にとっても他人事ではない。しかし、例えば、色の認識と形の認識は脳の別の領域でやっていて後から合成される、などという話は、自分でいくら主観を観察しても分からないことだ。

別にそれが分かったからといって、わたしの色と形の認識が変わるわけではないが、どうもこの類の脳科学の話というのは、世界観を揺さぶられる感じがして楽しい。結局、今わたしが見ているこの世界がどうやって構成されているのかという話だ。わたしとしては、今言った「見ているわたし」にも興味があるが、この筆者はその類の質問は哲学の領域の話で、科学の知ったことではないという立場だ。それにしても、fMRIや脳の損傷からの観察は興味深いし、哲学者でも心理学者でも、知っておくべきことだろう。類書を見ないので、翻訳したら売れる気もするが、ちと書きぶりがストイック過ぎるかなあ。自己啓発的な要素は全くない。

Many questions about human cognition are answered by analysis of healthy humans' and stroke patients' brains observed by fMRI. Simple, but enlightening.

出版社: Oxford Univ Pr (2016/12)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198786221