2016年6月16日木曜日

Chris Shilling "The Body: A Very Short Introduction" [身体:非常に短い入門]

目次:1.自然の身体か社会的な身体か 2.性別のある身体 3.身体を教育すること 4.身体を統治すること 5.商品としての身体 6.身体の問題:ジレンマと論争

例によってタイトルが短すぎて意味が分からないが、翻訳出版するなら「身体の社会学」というところ。本来ならこういうタイトルは読まないが、冒頭を数ページ読んで、筆者の誠実な文体が気に入って全部読むことに。出てくる人名はゴフマンとかアガンペンとかブルデューとか、社会学者がほとんどだ。

実際ものすごく良く書けている。たとえば二章は普通のフェミニズムの見解を普通に述べているだけだが、社会学を学ぶのなら当然把握しておくべき内容が分かりやすくまとめられている。以降、パノプティコンとかバイオポリティクスとか対面の相互作用とか、社会学の基本を「身体」という面から学習できる。社会学の初学者には、英語の勉強も兼ねて読む価値が高い。翻訳すれば、全国の社会学の学生の指定図書になると思うし、結構売れそうに思う。

ここから先は完全にわたしの個人的な感想だが、最初から最後まで"embodied"という形容詞が気になった。冒頭でも著者は西洋哲学の身体軽視を批判するところから入っているが、それでもまだ日本人・東洋人の感覚から遠いような気がする。それでも社会学からすれば大きな一歩なのかもしれないが。ただ、最後の辺り、インターネット越しの社会関係と、身体の近接を前提とする社会関係の相違は、少し考える気にはなった。

I am not a big fan of sociology any more. Still, this book is extremely well written.

2016年6月10日金曜日

H G Wells "The Invisible Man" [透明人間]

古典的名作であり、実際相当面白い。「今読むとやっぱり古い」みたいな意見もあるようだが、わたしは全くそうは思わない。今、透明人間をテーマにした小説・マンガ・ドラマを作っても、こんなに面白くならないだろう。ユーモアもあり、怪奇もあり、謎の感動もある。

話は要するに透明になることに成功した人間の冒険だが、主人公の性格が狂っていて良い。利己的で、自制心が弱く、暴力的である。今だったら主人公を慎重な性格に設定して、透明であることを活かして悪と戦ったりしかねないところだ。夜神月には共感しないがグリフィンには共感できる。元々準備万端で透明になったわけではなく、衣食住の確保から苦労するが、基本的には盗みと暴力の壮絶なドタバタになり、喜劇なのか悲劇なのか判定が難しい。クライマックスでは一つの町を恐怖で支配するとか言い出し、その割に手始めにやることが個人的な復讐というのもこの主人公に相応しい。グリフィンは悪い奴だが、それに相応しい末路を迎えるわけで、謎の感動がある。

この小説を読む人は、自分だったらどうすると必ず考えると思うが、自制心が子供並で、屈強の肉体を持っている上に他人から監視されないとなれば、まあ、遅かれ早かれ、百人が百人こんなことになるんだろうと思う。その意味では、ほとんど普遍的な真理を描く名作文学である。世間でどう評価されているのかあまり知らないが、単なる「SFの古典」ではなく、もっと高く文学的に評価されても良さそうなものだ。訳は見ていないが、古典だし大体大丈夫たろう。

One of the best novels I have ever read. Griffin is a bad guy, sure, and if we contrive a modern TV series featuring a invisible man, we will create him as a hero fighting with evil forces or something. Nonsense. If we have only childlike self-control and a tough body suitable for hand-to-hand combat and are not be seen from others, sooner or later, we will all become Griffin. The Invisible Man tells us a universal truth. This is not only a classic SF, but also one of the great literatures in the world.

2016年6月1日水曜日

Robin Wilson "Combinatorics: A Very Short Introduction" [組み合わせ論:非常に短い入門]

目次:1.組み合わせ論とは何か 2.四種類の問題 3.順列と組み合わせ 4.組み合わせ論の動物園 5.敷き詰めと多面体 6.グラフ 7.正方行列 8.デザインと幾何学 9. 分割

この本はわたしには初歩的過ぎて公平なレビューにならないかもしれない。中学生だとしんどいかもしれないが、おそらく日本の高校生くらいなら普通に読めるだろう。全く頭を使わないわけではないが、紙と鉛筆が必要なわけでもなく、pop mathより少し踏み込んでいるくらい。わたしの場合、コンピュータサイエンスを相当やった経緯があるのと、群論の知識が初歩的にでもあるので、ちと易し過ぎる。肝心なところで証明が無かったりするのが気になるが、レベルを考えるとやむを得ない。

中途半端なpop mathを読むくらいなら、真剣な数学書を最初だけ読んで挫折するほうが優れている、というのがわたしの持論だが、この本についても翻訳してもイマイチな気はする。パスカルの三角形をいじるような組み合わせ論については中高生向けの本もあるだろうし、N=NP?みたいな話なら計算機科学でやはり初歩的な本も山のようにあるし、四色問題のようなグラフ理論ならVSIでもいい本がある。ただ、そのあたりを一冊で済ましているということもあるので、大学生の英語の勉強には良いかもしれない。

It was too elementary for me, though maybe a good reading for japanese high-school students.

Oxford Univ Pr (2016/07)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198723493