2014年8月22日金曜日

John H. Holland "Complexity: A Very Short Introduction"

複雑系、特に複雑適応系(CAS)の概略。対象としては言語・生態系・市場など、ツールとしてはグラフ理論・マルコフ連鎖などが例示されているが、数式は出てこないし、どのみちあまり深みもない。創発性とか対称性の破れなどがテーマになっている。一つにはこの分野がまだ手探りの初期段階というのもあるだろうけど、もしかするとこの著者の語り方が下手なのかもしれないと疑う。どうも複雑適応系の形式的なモデル化を目指す方向の説明らしいが、多くの話が機械学習とか人工知能とかで聞いたようなことだ。ただ、最終章で現状のその類の研究がCASを取り扱うには力不足であることを明白に示しているわけで、確かにそれ以上の話ではあるらしい。まあ「複雑系」と名のつくpop scienceみたいな本は日本語でもあるし、ちとそういうのと比較しないと、この本の評価はできないが、個人的には、あまり面白くない本ではあった。

Complex systems, especially CAS are explained. But for me, it did not provide new insights....

Oxford Univ Pr (2014/09)
ISBN-13: 978-0199662548

2014年8月11日月曜日

Hugh Bowden "Alexander the Great: A Very Short Introduction"

基本的にはアレクサンダー大王の伝記。範囲はマケドニアからエジプト・トルコ・アフガニスタン・パキスタン・インド洋まで広いが、王位にあったのは8年だし、32歳で死んでいるので期間は短い。その間、ほとんど行軍しているが、軍事行動自体の記述は少ない。その点はちょっと残念が気がするが、実際のところ、信頼するに足る史料が少ないのだろう。俗説を訂正しながら、大体アレクサンダーの行軍の過程を追う。というと面倒くさい本のような印象を与えかねないが、実際には一気に読んでしまう。アレクサンダーの行動自体面白いが、俗説のほうもそこそこ面白いからだ。

こういう本が出てくる状況を説明すると、西洋ではアレクサンダー大王伝説(Alexander romance)が大量に作られており、そうでない真剣な伝記の試みも過去二千年以上に渡って膨大な蓄積がある。できるだけ事実に近いアレクサンダー大王像を取り出そうとすると、同時代人による記録を参照することになるが、それも鵜呑みにはできないようなことだ。特にローマ人が語る場合は、ローマの政治状況なども影響したり、時の皇帝の教訓に資するように書いたりするから難しい。たとえばWikipediaのアレクサンダー大王の項にはもっともらしいことが大量に書いてあるが、その前にこの本を読むべきだろう。とにかく、予備知識なしでも、面白く読める。これも翻訳してほしいところだが、アレクサンダー大王という名に感じる熱量が、西洋人と日本人じゃちょっと違うかね。

Fascinating presentation of Alexander III. We can find a lot of information on Alexander the Great, for example, in Wikipedia. However, you should read this book first, if what you want is a historically real Alexandros.

Oxford Univ Pr(2014/09)
ISBN-13: 978-0198706151

2014年8月10日日曜日

Matt Tweed "Essential Elements: Atoms, Quarks, and the Periodic Table" (Wooden Books)

周期表の紹介にとどまらず、電子軌道とか原子以下の素粒子の話にまで突入し、最終的には超ひも理論まで解説。Wooden booksとしては、かなり情報が深く、中学生でも読めるとは思うが、大学生とかが読んでも勉強になりかねない。短い本だが、是非図書室には置いておきたい本だ。

Very informative and academic for a wooden book yet easy to follow. An very attractive cute book.

Walker & Co (2003/04)
ISBN-13: 978-0802714084

2014年8月6日水曜日

David Norman "Dinosaurs: A Very Short Introduction"

いわゆる恐竜の解説。かなり専門的で、特段難しいわけではないが、子ども向きではない。VSIにありがちなことで、図版が少なく、半分くらいは研究史。あとは恐竜の生理や生態をわずかな手がかりから再構成していく作業の紹介で、深い世界ではあるが、一般にはウケないかな。

A very academic book. Half of the book consists of a history of the research. The other half consists of researchers' trial of reconstructing dinosaurs' physiology, modes of living etc. Few pictures, as is often the case with this series.

Oxford Univ Pr (2005/12/15)
ISBN-13: 978-0192804198

2014年8月5日火曜日

James A. Millward "The Silk Road: A Very Short Introduction"

シルクロードの歴史だけど、編年史というよりは色々な交流の紹介。というとありがちな気がするが、この本は面白過ぎて読むのに時間がかかった。合わせて読みたいThe Mongols: A Very Short Introductionだけど、時代はそれより遥かに長いし、The Mongolsが読み物として一気に読んでしまうのに対し、こちらはまめちしきが多くて、一々調べてしまうので時間がかかるのだ。たとえば・・・、

  • 横から見るとXで、上に布が張ってあるだけの折りたたみ椅子は、北アフリカで発明されて200年頃に中国に伝わった。中国で固定椅子が普通になるのはずっと後である。
  • ナスは東南アジアまたは南アジア原産だがイランに伝わり、戻ってきた時には今のように紫色でちょっと長くなっていた。
  • 751年タラスの戦いで、サマルカンドにつれて行かれた唐の職人が紙工場を作ったが、ヨーロッパが紙を作り始めたのは12世紀末になってからである(スペイン)。
  • ローマ人は絹を愛していたが製法を全く知らず、クレオパトラは輸入した絹織物をリフォームして着ていた。
  • 「一本ではすぐに折れるが束になると折れない」という教訓は古くはイソップ寓話にあるが、ユーラシア全体に伝わり、モンゴルでは王母が言ったことになっている。
というようなことはほんの一例で、一々感心して調べていると、時間がかかる。わたしとしては面白かったし、大変勉強になった。結構世界観が変わる。「シルクロード」というタイトルの本は日本でも多いが、これを翻訳しても十分競争できると思う。まあ、売ろうとすると、もう少し図版写真が欲しいのかなあ。

A very good introduction to the Silk Road. A lot of fascinating facts on each page.

Oxford Univ Pr(2013/4/12)
ISBN-13: 978-0199782864