特に日本語訳が売れたらしい。大雑把に言うと、財産を残して死ぬ人間が多い現状に対し、「金を使い切って死なないと勿体ない」と主張する本。遺産を相続させたり寄附したりするんなら今すぐやれみたいな…。つまり、ある程度資産がある人か、これから資産を作る/得る見込みのある人が対象読者ということになる。
わたしの理解では、主張の前提になる命題は二つある。一つは、資産形成を初めてどこかの時点でピークを迎え、そこからは資産を減らして行って死ぬ時にゼロになるのが最も得という考え。わりと常識的な考えと思うが、実際には死ぬまで資産を増やしている人も多く、これはムダであると。もう一つは、若いうちのほうが同額の支出から大きい幸福を引き出せるという考え。例えば若いうちなら留学したりして数百万円から色々な幸福を引き出せるが、死ぬ間際でロクに動けない時に同額の金があっても大した幸福を引き出せない…みたいなことらしい。多くの人は自分の加齢を計算に入れずに支出を先送りし過ぎていると。
この二つの命題を考慮すると、著者の主張では45-60歳の間に資産のピークを迎えるのが最善だそうだ。これは、例えば日本の国家資格であるFP技能士の標準的な教えからすると、確かに早めではある。わたしもFP2級を持っているが、だいたい退職時ピークの計算になっている。本書の主張のコアはそういうことで、残りの部分は必要以上に不安がる人の説得に当てられている。もちろん寿命は誰にも分からないし、死ぬ瞬間にちょうどゼロにするなんて不可能だから仕方がないが、それにしてもみんな財産を残し過ぎだとか。
この件については各人で状況が色々なんで一般的なアドバイスはないが、とにかく、この界隈の出版物の言うことがだいたい安全側に傾きすぎというのは確からしい。わたしとしても、どうしたもんかねと考えることはあるが…。この本が前提にしている価値観、例えば「人生の最大の目的は思い出作り」とか、そういうのにまず共感できるかというのもある。「死ぬ時に年収分の財産を残していたら一年分ムダ働きしたことになる」とかいう考え方も、そうなんかなあとか。
ともかく、本質的には、資産額に焦点を合わせるのではなく、支出から得られる幸福を計量単位にして支出を最適化したら、通常思われているより早めの時点に資産額のピークを設定したほうが良いと言う話であった。今言った話が理解出来たら、別に読まなくてもいい…というのは言い過ぎか。読む人によって引っかかるところも違うだろうし。世間に蓄財本はいくらでもあるが、金を使えと主張する本は少ない。わたしとしては、別に節約家のつもりはないが、読書以外にナチュラルに金を使わない人間なので、いざ支出しようと考えても難しかったりする。クビになったら特に考えなくてもゼロで死ぬかもしれない。そんなことまではこの著者の知ったことではないようだが、色々と考えることはあった。
In spite of all the ads we see every day, few books urge you to spend money. This book made me think about money in a different way.
Mariner Books (2020/7/28)
言語:英語
ISBN-13 : 978-0358099765