ISBN-13: 978-1408824733
安倍首相なんて、久しぶりに思い出した。今なら橋下市長などは、この本の読者の格好の研究対象になるだろう。日本語訳のタイトルをつけるとしたら、直訳は「勝者効果」というところだが、内容的には「権力の心理学」というところ。心理学で言えば、Kahnemanも衝撃的だったが、これもなかなかのものだ。誰か翻訳作業中かなあ。amazon.comでも一個しか書評がついていないようだが。まだ出て間もないから仕方ないけど、もっと読まれるべき。
勝ちたいと思うこと、勝つこと、社会的地位が高いこと、他人に対して影響力を持つこと、権力を持つことが、脳にどういう効果をもたらすかの解説。勝ち組である(と感じる)ことは、良い面としては、確かにある種の能力を高める。原始的な話で言えばセクシーになる。集中力が増したり、活発になったりする。負け組であると感じている人は、力を発揮できない。等々。ただしマイナス面もあり、話としてはこっちのほうが面白い。まず、自分が他人からどう見られるかを判定する能力が低下する。他人への共感力が低下する。等々。一つ一つに脳科学的な説明が続く。
考えてみれば、日本でも、ある程度は聡明なはずのワンマン経営者が、素人以下の情勢判断をして大顰蹙を買うということは良くあって、なんでそんなことになるのか不可解だったが、やっと腑に落ちた気がする。あと、いじめ問題とか、一方が他方を軽蔑している夫婦とか、ブッシュとブレアの不可解な戦争とか、差別が被差別者の脳に浸透する仕組みとか、色々勉強になって、ここには書ききれない。
シチュエーションとしては、政治や経営の話が多いが、家族・学校・病院・刑務所等々でも、要は、権力が問題になるようなところでは、誰でも身近に感じるはずのことで、いじめ問題なども取り上げられている。誰もが読むべきだが、特に権力を持つ人は読んだほうが良い。権力はドラッグと同様であり、本人が気がつかないうちに中毒を引き起こす。権力は人を幸福にも不幸にもするし、取り扱い方法を学んでおくべきだ。
というわけで、本当に誰にでもお薦めできる本ではあるが、特に書き出しが全然面白そうでないという重大な欠点があった・・・。叙述パターンとして1具体事例の描写。2脳科学的真実。3「これで全て謎が解明されたのだろうか。いやそうではない。次の例を見よう」の繰り返しになっている。読んでいるほうとしては1「いやそんな個別例を一般化されても」2「その理論は面白いけど、それでこの個別例が説明できるかどうかはまた別では」3「そりゃそうだろう」の繰り返しになり、読書中、ツッコミまくっているような感じになる。超重要かつ明日から使えるような実用的なことを言っているのだが、印象的に損をしている気がする。もう一つ言えるのは、本の中でも言っていることだけど、西洋人の権力観・個人観が、我々東洋人と若干違うということもあり、我々から見ると「少し単純過ぎるのではないか」と思うこともある。しかし、それも色々考える材料にはなる。特に最後のほうの権力感が脳に及ぼす悪影響のほうは圧巻だし、面白くなさそうと思っても読み続けて良かった。英語的にも決して難しい本ではないので、誰にでもお薦めしたい。
I recommend this book to everyone who exerts power on others, especially professionally, i.d. politicians, bosses, teachers, parents.... A major draw back is that the beginning part is a bit boring at least for me. Then it's becoming more and more interesting and the final part, which describes negative sides of winning, is just wonderful. And..., well, I am an east Asian, and I perceive great cultural differences between Westerners and us. Having power is not so simple in Japan... Still of course, we share common sociology and physiology to a great extent and this book is a must-read for both of us.