2025年1月14日火曜日

Amy Jones "Character: Arcs and Archetypes" [キャラクター:物語と元型]

Character (Amazon.co.jp)

フィクションの中のキャラクターの分類学みたいな話。どっちかというと、物語を作ろうという志向のある人向けに書いてある感じ。実際、小説家とか脚本家みたいな人はこんなことを考えているんだろうなとも思う。個人的に思うのは、フィクションというか話を作ろうなどと考える人は、本当に子どもの頃からそんなことをしている印象がある。そんな子供に向いている本ではある。わたしには縁のない世界かもしれない。わたしは相当な読書量があるが、フィクションの占める割合はかなり小さい。そして創作の才能は皆無だ。

出版社 ‏ : ‎ Wooden Books (2023/10/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155512

2025年1月1日水曜日

Paul R. Rosenbaum "Causal Inference" [因果推論]

 Causal Inference (Amazon.co.jp)

目次:1. 処置により引き起こされる効果 2. 無作為化実験 3. 観察研究:問題 4. 測定された共変量のための調整 5. 測定されなかった共変量の感度 6. 観察研究の設計の中の疑似実験的手法 7. 自然実験と中断と操作変数 8. 再現性と解像度とエビデンス因子 9. 因果推論の中の不確実性と複雑性

統計的因果推論の入門書というか、理論的基礎を考える本。似たようなタイトルでThe Book of Whyという本もかなり前に読んでいて、それも統計的因果推論の入門書には違いないが、一応別方面の本だ。The Book of Whyは統計的因果推論の特定の手法、do-calculusを紹介して技術面にも入っているが、本書は古典的な推測統計学しか前提にしていない。あまり数式を使っていないのは、数式以前の世界だから。代わりに箱ひげ図が駆使されている。そして、わたしの意見では、統計的因果推論の原理的な話について、こちらの本のほうが面倒ではあるが、遥かに説得力のある議論が展開されている。

たとえば、こういう話で典型的に出てくるのが喫煙と肺がんの関係で、疑似相関の疑いをどう排除するかだ。The Book of Whyの場合は、確か「そもそもそんな大きな交絡因子は数学的に不可能」みたいな話だった記憶がある。あの本の読んで気になったのは、そもそも交絡因子として何を想定するかが不明ということだった。

本書の場合はもっと分かりやすい。本書の話を単純化すると、喫煙者の肺がんリスクが非喫煙者より9倍(一日二箱以上なら60倍)もある以上、これが疑似相関であると主張するには、喫煙者と非喫煙者の間に9倍(60倍)の差のある因子を発見しなければ説得力が弱い。

早い話が、喫煙者と非喫煙者の肺がんリスクが喫煙のせいではなく喫煙者の特定の遺伝子のせいであると主張するためには、喫煙してもしなくてもその遺伝子だけで肺がんリスクが9倍にならないといけないわけだ。そんな劇的な効果のある遺伝子が今後発見されるとは考えにくい、みたいな。もちろん今の話もさらに厳密に考えればという話はできるが、ここまできたら、因果関係を否定する側に立証を要求するほうが普通だろう。

というような話は一例だか、この類の話をこんな雑にではなく、冷静に一つ一つ議論を積み重ねている。ただし着実過ぎてムズい可能性はある。予備知識としては統計検定二級くらいの知識で十分だが、今くらい雑にまとめてくれる先生がいたほうが理解しやすいかもしれない。書き方の問題もあるが、議論がどこに向かっているのか分かりにくいかもしれない。その意味では数式は確かに少ないが、数学書を読むくらいの覚悟が必要だ。

The MIT Press (2023/4/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262545198

2024年12月25日水曜日

Imari Walker-Franklin, Jenna Jambeck "Plastics" [プラスチック]

 Plastics (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. プラスチック製造と利用 3. 廃プラスチックを管理する 4. プラスチックゴミの発見 5. プラスチックに関連する化学物質 6. プラスチックの環境への影響 7. プラスチックの社会への影響 8. プラスチック政策 9. プラスチックの代替と介入

プラスチックの環境問題に関する解説書。高分子化学や石油化学工業の解説書ではない。ただし予備知識として、プラスチックの何が問題なのかを論じている部分を理解するためには、日本の高校程度の化学の知識が必要かと思われる。解決策について論じている部分については、そのような知識はあまり必要ではない。著者たちはこの問題が化学で直接解決できるとは信じていないようで、その方面に深入りしていない。

というのも、現状ではエベレストの頂上だろうとマリアナ海溝の底だろうと農産物だろうと人体の中だろうと、この惑星は既にプラスチックに汚染されきっており、仮にプラスチックが今すぐ全部生産停止になっても、今後数十万年は被害は出続ける。海岸や川で多少ゴミ拾いをしたところで、生産量が圧倒的過ぎて焼け石に水。ゴミを捨てるなとかいう道徳的キャンペーンで解決する社会問題なんか存在しない。どんなに気を付けてもプラスチックは環境に流れ出る。これらの手段が無意味というわけではないが、根本的に生産を規制する以外にないというのが著者たちの立場のようだ。ちなみにプラスチックの大半を消費しているのは包装であり、ここが主要なターゲットになるだろう。

しかし、この本の著者たちは知らなかったことだが、これから第二次トランプ政権が始まるというようなことで、状況は悪化している。著者たちはgreenwashを非難しているが、世界はwoke mind cultureにうんざりしている。環境問題に右翼も左翼もないはずだが、現実にはそんなことになっていない。

個人的に思い返すと、公害防止管理者試験で、騒音振動・大気一種・水質一種に合格したが、廃プラスチックとかいう話は記憶にない。そのうちプラスチック一種とかできるかもしれないが、結局、この本でも問題にしているように、プラスチック公害は基本的に消費者の責任にされていて、生産者は責任を逃れ続けている。

そんなことで色々考えさせる本だったが、この本は入口としてはいいけど、個人的にはもう少し化学工業について勉強していこうと思っている。

The MIT Press (2023/8/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262547017

2024年12月22日日曜日

Howard J. Herzog "Carbon Capture" [炭素捕獲]

 Carbon Capture (Amazon.co.jp)

目次:1. 気候変動 2. 化石燃料 3. 炭素捕獲 4. 炭素貯留と利用 5. 実際の炭素捕獲 6. 負の排出 7. 政策と政治 8. 未来

タイトルの意味が分からない人が多いと思うが、要するに主に排気ガスから二酸化炭素を抽出して、大気中に放出せずにどこかに貯蔵する技術の解説。現実的には主に火力発電所やセメント工場などの煙道ガスからSOx・NOxなどを取り除いた後で吸収塔で二酸化炭素を吸収し、吸収した二酸化炭素は分離して地層処分することになる。初心者でも読めることになっているが、予備知識として基本的な化学工業の知識の他、火力発電所の仕組みを概念的にでも把握している必要があるだろう。

…と言っただけで、普通の人は色々な疑問が湧くのではないかと思う。①地面にCO2みたいな気体を埋めても漏れてくるんじゃないかとか、②CO2みたいな不活性な物質を分離するのは高価過ぎるんじゃないかとか、③そんなことができるんなら地球温暖化なんか簡単にキャンセルできるのに何でさっさとやらないのかとか。この類の疑問を持つ人なら読んで面白いのではなかろうか。

わたし個人としては、CCS(Carbon Capture & Storage)については公害防止管理者/エネ管/電験の勉強をしていた時に、時々情報は入っていた。と言っても、煙道ガス処理についてはSOx・NOx・煤塵が主で、CO2については煙道の前にそもそも発生を抑える話がこの類の技術の基本だ。そんなことでCCSの話が出てもあまり真剣に考えていなかった。実際、この本の著者も認めているように、最近あまり支持者のいない技術である。ただ、別に技術的に困難とか地球温暖化対策に対して無意味とかいうことではなく、単に政治的な理由による、という。

それとは少し違う話で、最近特に化学系の会社を調べていると、やたらアミンを全面に押してくる会社が多い。アミン類自体多様な用途があるが、一つには業界的にはCCSに未来を見ているのも理由らしい。煙道ガスからCO2を回収する方法は本書にも色々述べられているが、現在の主力はアミンを用いる方法で、煙道ガス中のCO2の90%以上を回収でき、回収されたCO2の純度は99%以上という。

というような話に興味を持てる人には良いCCS入門書だと思う。というか、これ以外に素人向けの本があるのだろうか。ところどころ書き方が整理されていないように見える部分もあるが、大した問題じゃないだろう。

出版社 ‏ : ‎ MIT Press (2018/8/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262535755

2024年12月18日水曜日

Markus K. Brunnermeier, Ricardo Reis "A Crash Course on Crises: Macroeconomic Concepts for Run-Ups, Collapses, and Recoveries" [危機についての緊急講義:急騰・急落・回復に関するマクロ経済の概念]

A Crash Course on Crises (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. バブルと信念 3. 資本流入とその(誤)配分 4. 銀行とその仲間たち 5. システムリスク・増幅・伝染 6. 支払い能力と流動性 7. 民間部門と公共部門の関係 8. 安全資産への逃避 9. 為替レート政策と回復速度 10. 新しい伝統的金融政策 11. 財政政策と実質金利 12. 結論

金融危機に関する10の考え方(2-11章)をまとめたもの。予備知識として経済学部で最初に教科書で学ぶ程度の知識は必要かと思われる。というか、教科書は正常な状態の金融経済の説明が主で、金融危機みたいな異常事態には深入りしていない。その部分を補完するような本で、それ自体面白いし、正常時の金融理論の理解も深まる。2-11章の各章はそれぞれ考え方の説明と実例から成る。

2...バブルと分かっていてもバブルに乗らざるを得ないことのゲーム理論ぽい考え方。

3...何らかの理由で生産性の低い部門に資源が優先配分されてしまうことによる経済低迷。

4...影の銀行によるリスク増大。

5...現代の銀行が他行を模倣することによるリスクの増大。

6...債務超過と単なる流動性不足の区別をすることの難しさ。

7...国が銀行を保証するが、その銀行が国債を保有していることによる悪循環。

8...安全資産の自己成就的性質による危機増幅。

9...負債が外貨建てで資産が自国通貨である場合の為替によるダメージ。

10...準備の飽和・量的緩和・イールドカーブコントロールとか要は日銀がやっていること。

11...危機時の財政出動に関する最新の見解。

改めて見直すと、一つ一つは別に新しくないが、整理されていて分かりやすい。それぞれの項目について原理的な説明と実例のセットというフォーマットも簡単で良い。専門家から見れば実態を単純化し過ぎということかもしれないが、基本的な「経済学論法」の学習という意味もある。

出版社 ‏ : ‎ Princeton Univ Pr (2023/6/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0691221106

2024年12月16日月曜日

Jeffrey Pomerantz "Metadata" [メタデータ]

 Metadata (Amazon.co.jp)

目次:1. 導入 2. 定義 3. 記述メタデータ 4. 管理メタデータ 5. 使用メタデータ 6. メタデータを使う技術 7. 意味論的ウェブ

ほぼ十年前の本だが、扱っている内容が基礎的というか原理的なので、あまり内容は古くなっていない。博物館員・図書館員その他データベース技術者がメタデータを実際に扱うための分厚い本は外にも新しい本が色々あるが、まともにストーリーとして通して読める本としては、多分これが今でも唯一じゃないかなあ…。

読むのに特に前提知識はいらない。Mona Lisaが例として使われるのはこの類の話の定例で、何らかのデータベースを使ったことのある人なら読めると思う。Dublin CoreとかRDFから順にPREMISやらMETSやらDTDやらXMLやらLinked Dataやらschema.orgやら。だいたい基本的なスキーマをその背景などから解説していて読み易い。とは言え、今挙げたスキーマを全く聞いたことがないという人がこの話を面白いと思うかどうかは保証できない。無関係な人はいないはずだし、ITリテラシという意味では必須科目だとは思うが、知らなくても生きていけることではある。

そういうことでは冒頭と最後にSnowden事件の話が出ているが、これが素人にも分かりやすく興味を引くかもしれない。ただSnowden事件自体が古いからな…。あと最後のSemantic WebとかAgent志向みたいな話は、さすがに十年前という気もする。Generative AIが発展する前の時代なので、今ならもっと違う書き様もあるだろう。ただし、繰り返すが、メタデータの必要性は今も昔も変わっておらず、今でもこの本が基礎を学ぶ最善の方法だと思う。世に出ている本の多くは技術的細部に入り過ぎていて、専門家用の辞書でしかない。

もちろん文書館員美術館学芸員その他、いわゆる大量の文化遺産を扱う人にとっては基礎知識なので、多分全員読んだほうがいい。そうなってくると、なぜこの本が日本語訳されていないのかのほうが気になる。こんな本が翻訳されれば最低でも全国の関係機関が一冊ずつ買うわけだから、確実に売り上げが計算できるように思う。古い部分は専門家がupdateの監修すればいいだろう。出版業界もチャンスを随分逃している、というか出版業界自体がメタデータに重く依存している業界なわけで、これくらいの知識は必須だ。

個人的にはもう少し実際のEuropeanaやDPLAの実装を見たいが、もちろんそういうのはこの本の視野を越える。実際には実装については日進月歩なので各機関のWebサイトにある仕様を確認するしかない。

出版社 ‏ : ‎ MIT Press (2015/11/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262528511

2024年12月5日木曜日

Daron Acemoglu, James A. Robinson "Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty" [国家はなぜ衰退するのか:権力と繁栄と貧困の起源]

Why Nations Fail (Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(上)(Amazon.co.jp)
国家はなぜ衰退するのか(下)(Amazon.co.jp)

原著2012年刊の時点で注目していた本だが、気になりながらずっと放置しているうちに2024年ノーベル経済学賞受賞ということで、読むしかなくなった。

ずっと放置していた最大の理由は書名が大風呂敷過ぎるように感じたからだが、実は書名の質問に対する答えは比較的単純なものだ。わたしがまとめると、要するに1私有財産権が守られないほどの無政府状態になるか2ごく一部の政治エリート層が富を独占して残りの国民から搾取するから。このどちらでも、技術革新が起こらないので国家が衰退する。

1の状態は論外として、2の状態では、例えば貴族と奴隷みたいな社会だと、好き放題収奪される奴隷の側では技術革新を起こす理由がないし、外国から新技術を取り入れる理由もない。エリート層は自分たちの地位を守るために技術革新を阻止する。さらに2の状態ではクーデターの魅力が大きい。その結果、革命は起こるが、単に支配者が入れ替わるだけで少数が多数を抑圧搾取する構造は何も変わらない。

実例が大量に挙げられ、ほとんど世界史のおさらいみたいになる。本書が分厚く見えるのはそのせいで、書いている理論が難しいからではない。例えば韓国と北朝鮮のとんでもない格差の原因は、北朝鮮では一部エリートが政治権力を独占していて私有財産権が認められていないからだとか。面白いけど、高校生程度の世界史の知識は必要かもしれない。

などと言っているうちに、つい先日、韓国の大統領が突然夜中に非常戒厳を発令していて何のこっちゃみたいな話になっている。そもそも軍隊も警察も真剣に従わない。しかし、同じ話が中南米とかアフリカとかで発生しても、そんなに驚かない。この違いは民度がどうとかいう話ではなく…という話はこの本を読んだ人と語る話だ。最近ダボス会議でのアルゼンチンの大統領の演説もだいたいこの本の路線に乗ったものだっただろうか。

面白くてわりと一気に読んだ本だった。あまり大風呂敷系のタイトルは読まないけど、この著者については読んでいってもいいかもしれない。

Crown Currency (2013/9/17)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0307719225

2024年11月23日土曜日

Arthur Conan Doyle "The Valley of Fear" [恐怖の谷]

The Valley of Fear (Amazon.co.jp)

ホームズの四つの長編のうち最後のものだが、これなあ…。まあ退屈はしないし一気に読んだが、人気のないほうの作品だろう。ネタバレは避けるが、犯罪の背景が巨大なのはたまにあることで、前半がホームズの推理パート、後半は別の主人公が活躍する。さらにEpilogueがある。

前半部分についてはそもそも事件自体が粗い。後半については、少なくともわたしには最初からネタがだいたい分かったし(前半を踏まえたら分かりそうなものだ)、全く意外性がない。特に主人公が勝ち誇るクダリなんか読んでいられないところがある。ずっと一体何を読まされているんだとずっと思っていたが、意表をつかれたという感想の人も多いようなので、人それぞれかもしれない。

しかし、その点を別にしても、特に後半、愉快な話ではないし、推理小説というよりはそれこそdime novelみたいに思える。最後も後味がよくない。こんなEpilogueを書く必要があったかね。ずっとホームズを発表順に読んでいるが、気を取り直して後二冊。

Flame Tree Collectable Classics(2023/6/27)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1804175606

2024年11月19日火曜日

Earl Conee, Theodore Sider "Riddles of Existence: A Guided Tour of Metaphysics" [存在の謎:形而上学の案内付き旅行]

 Riddles of Existence (Amazon.co.jp)

目次:1. 人の同一性 2. 運命論 3. 時 4. 神 5. なぜ無でないのか? 6. 自由意志と決定論 7. 構成 8. 普遍者 9. 可能性と必然性 10. 倫理の形而上学 11. 形而上学とは何か? 12. 超形而上学

タイトルと目次から明らかなように、形而上学の入門書。個人的には散々読んでいる話で、今更なんでこんな本を買って放置していたのか忘れたが、改めて読むと面白いというより懐かしい。この本については分析哲学の流れの中にある本の通例で、特に読むのに予備知識は必要ない。ただ、相当の論理的思考力と、それを無駄遣いする覚悟が必要だ。

個人的にはこういうのはもう、現実の真理について考察しているというよりは、人間の思考の構造について調べているような気がして、そこまで微細な議論を追い求める気もあまりない。最近は脱構築なんて流行らないのかもしれないが、結局、人間の考えることなんか厳密化していくと大体自己矛盾に陥って、それも言葉というものの本性上仕方がないのではないかとか、そんなのがわたしの今の気分だ。

Oxford Univ Pr; New版 (2015/2/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198724049

2024年11月14日木曜日

Jean Servier "Les Berbères" [ベルベル人]

Les Berbères (Amazon.co.jp)

ベルベル人と言われても何のことか分からない人も多いと思われるが、フランス語やフランス文化を学ぶ人は「マグリブ」という謎の地名と共に必ず聞く話である。大雑把にはマグリブとはアフリカ北部の地中海沿岸地域で、ベルベル人は主にその辺りに住んでいる民族ということになるだろうか。ただ漠然とした印象では、当人たちがあまり民族という概念を尊んでいる感じがないし、あのあたりの通例で部族という概念のほうが強いのだろう。だいたいがイスラム教徒で、ベルベル諸語と言われるような言葉が話されていたりする。…というくらい。

で、正規のフランス語のコース教材みたいなを勉強していると、このマグリブとかベルベル人という概念がやたら出てくる。一応「先住民族」みたいな扱いもあり、「多様性を尊重する」とかいう流れの中で、公式な出版物ではかなり紙面面積を取る。本人たちがあまり民族性を主張していないのに、フランス政府が無理矢理一つの民族という枠にハメている感じは否めないが…。とにかく、今の価値観が「全人類を対等の権利を持つ民族集団に区分して各集団に平等にリソースを割り振る」ということになっているから仕方がない。

そういう背景があって、フランス文化の勉強をしているとあちこちで散発的にマグリブ文化の話を聞かされるが、結局ベルベル人というのが何なのかということになるとまとまった記述がない。あるとしたらこの本が第一と思われる。この本自体は教科書的というか公式的で読み物としてそんなに面白くないと思うが、散発的に聞いている話がまとまる感じはある。

QUE SAIS JE (1 mars 2017)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2130792833

2024年11月3日日曜日

Jeff Kinney "Diary of a Wimpy Kid #19: Hot Mess" [軟弱な子供の日記#19:大混乱]

Diary of a Wimpy Kid #19 (Amazon.co.jp)
グレッグのダメ日記19(Amazon.co.jp)

一応ユーモア児童書扱いでポプラ社は翻訳を続けるようだ。世界的には売れている本だが、日本でも売れているのだろうか。一応各巻独立に読めるが、順に読むに越したことはない。この19巻は祖母の指令で母の姉妹たち及びその子供とかとビーチに泊りがけで行く話。この巻は低調だったような気もするけど、わたしの個人的な問題かもしれない。わたしは親族と言う概念があまり良く分からない。親族がいる人にはリアリティがあるのかもしれない。あと、だいたいオチが読めていたのもしんどかったか…。今回も犯罪すれすれという話もある上に、わたしから見ればグロ過ぎるように思える話もあるが、やはり個人的な問題かもしれない。

それはそれとして本の内容と別の話だが、この本は入手に手間取った。まずAmazon.co.jpに予約していたのが発売前から勝手にキャンセルされる。何度問い合わせてもまともな返事が来ない。割が合わないから入荷するのを止めたのだろう。随分前に予約して円安が進行したせいもあるかもしれない。楽天ブックスは表示されている値段が安いだけで、実際には商品が確保されることはない。一か月くらい経ってから「確保できませんでした」とかいうメールが来るだけだ。どっちにしろ不誠実だ。丸善は在庫が出ない以前にタイトルがヒットしない。多分システムの問題で店頭で調査すればまた違うかもしれない。結局、紀伊国屋書店に店頭在庫があり、確保した上で買いに行った。

  • ヨドバシ.com…新刊和書なら一番割安で住んでいる場所によっては配送もスゴく速い。ただし、すぐに品切れになる上に洋書は不可。
  • Amazon.co.jp…わりと万能だが、そんなわけで最近紙の洋書の入手が悪くなっている。発注を受けてから他のサイトを調べるだけの出品者が多い。どうしてもならAmazon.comとかAmazon.fr。
  • 楽天Books…発注したことは何度もあるが、届いたことは一度もない。新刊和書ならいいのかもしれない。
  • 丸善ジュンク堂…個人的に近所にあるし、店頭在庫が多いが、そんなわけでWebで見えないことがある。高い感じはある。
  • 紀伊国屋書店…大手取次でない出版物や海外取り寄せで結構使っている。信頼できる。

Harry N. Abrams (2024/10/22)
言語 :英語
ISBN-13 : 978-1419766954

2024年10月27日日曜日

T. Edward Damer "Attacking Faulty Reasoning: A Practical Guide to Fallacy-Free Arguments" [誤った推論を攻撃する:誤謬のない議論のための実践手引き]

Attacking Faulty Reasoning (Amazon.co.jp)

目次:1. 知的行動の規範 2. 議論とは何か 3. 良い議論とは何か 4. 誤謬とは何か 5. 構造規準を犯す誤謬 6. 関連性基準を犯す誤謬 7. 許容性基準を犯す誤謬 8. 十分性規準を犯す誤謬 9. 反論性基準を犯す誤謬 10.論述文を書く

まともな議論をするためのガイドブック。大学の講義の一年分の教科書だろう。定評があるようでわたしが読んだのは第七版だ。グループワークみたいなのも各章ごとについている。最初の方はわりと形式論理学寄りだが、後半はより広く例えば「人格攻撃」とか「ギャンブラーの誤謬」みたいな非学術的な話が増える。誤謬を相手に対して指摘する方法などもわりと記述されており、その意味では論理学の本というよりは実践ガイドである。ディベートなどに有用だが、実際にはこれくらいのことは大学一回生で全員履修したほうがいい。社会科学に比べれば、数学や物理学は極めて原始的な論理しか使わないが、にしても政治経済その他日常生活で論述したくなることもあるだろうし、その時に欠陥だらけの論述をするようでは格好がつかない。実際そんなことも多いし…。

だいたいがわたしは理屈っぽいと言われるほうで、この類の本は昔は大量に読んでいた。色々考えることについては今でもしているが、もう他人の誤りを指摘するような用事からは長らく離れている。結局、人は誤りを指摘されるのを好まない。だったら自分でこの類の本でも勉強して自分で自分の誤りを発見できるようになったほうがいいと思うが。

この本が必修になれば、議論をする時に「それはundistributive middle termだね」などと捗るような気もするが、そんな世の中は来ないし、そうなったところで本当に捗るのかどうか不明だ。この類の本を読む人はそもそも議論の価値を重く見過ぎている気もする。純粋に仮想の話だが、「憲法二十四条が同性婚を認めているとは考えられず、基本的人権に反するのなら憲法のほうが間違っているので憲法を改正するべきである」などと言い始めたとしても、論理的な反論より現実的というか政治的と言うか暴力による反論のほうが大きすぎてほぼ無意味かと思われる。「インフレが厳しいからといって補助金を配っていたらますます円安になってさらにインフレが加速する」などという論理で政治が動くだろうか。しかし、この例については思考に論理的欠陥がないことが個人の利益に直結しかねない。

というわけで、わたしはこの本が想定しているような討論的な意味での論理的議論には悲観的だが、それにしても自分の判断を誤らないためにだけでも、こういう勉強は全員必修だと思っている。分厚いと言う欠点はあるが、さしあたりこの類の本の中では最高峰ではないだろうか。まあ自己啓発書のコーナーには「論理トレーニング」的な薄い本もよくあり、ああいうのでも読まないよりいいと思うが。

Wadsworth Pub Co; 第7版 (2012/1/9)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-1133049982

2024年10月21日月曜日

Arthur Conan Doyle "The Return of Sherlock Holmes" [シャーロック・ホームズの帰還]

The Return of Sherlock Holmes(Amazon.co.jp)

これも面白かった。内容は詳しく書く必要もない。死んだはずのホームズが復活してまた活躍する短編集。といっても一応また引退するような感じになっている。書き方がどんどん近代化していく感じはあるが、安心して読んでいられる。ホームズ作品を読む人は、まずホームズという人物像が好きなんだと思うが、わたしはあまりそういう感じではない。ただまあ、Baker Streetのアパートに貴人が訪れる図はカッコいいかなあと思い始めた。発表順に読んでいくと次は恐怖の谷。

Independently published (2022/7/20)
言語 : 英語 ISBN-13 :979-8841602958

2024年9月18日水曜日

Arthur Conan Doyle "The Hound of the Baskervilles" [バスカヴィル家の犬]

 The Hound of the Baskervilles (Amazon.co.jp) / バスカヴィル家の犬(Amazon.co.jp)

推理小説だしネタバレになっても詰まらないから内容は詳しく書かない。ここまでホームズをだいたい発表順に読んできて、わたしとしてはこれが一番面白いように思うが、一般的にはそこまでは人気はないようだ。最大の理由はホームズが出てこない部分が長すぎるということらしいが、一つには、舞台となる荒野/湿地帯/新石器時代の石造りの家々を思い浮かべにくいからだろう。この点については日本人だけでなく英国人にとってもあまり変わらないのかもしれない。ただし、わたしはここまで大量にWooden BooksでUKの新石器時代の遺跡と荒野を見てきたから、問題にならない。名作だった。

SeaWolf Press (2018/10/22)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1949460513

2024年9月11日水曜日

Marlene Zuk, Leigh W. Simmons "Sexual Selection: A Very Short Introduction" [性淘汰:非常に短い入門]

Sexual Selection (Amazon.co.jp)

目次:1. ダーウィンのもう一つの大きなアイデア 2. 配偶システム、誰と誰がどれくらい長く 3. 競争者の中から選ぶこと 4. 性的役割とステレオタイプ 5. 交尾の後の性的淘汰 6. 性的対立 7. 性はどのように種を存続させるか 8. 結論、ここからどこへ

性淘汰の動物博物誌という感じ。素人の想像以上に色々なパターンがあって、それはそれで楽しい。ヒトで言えば「どういうのがモテるか」という話だが、結論から言うと、そういう話はよく分からない。それ以前に動物でも「なぜその特徴を持っているとモテるのか」ということが分からないことが多過ぎる。たとえば、どう考えても生存に不利な特徴を持っているオスがメスに選好される種があったとして、人間が理屈をつけるとすると「そのようなどうでもいい特徴に資源を割り振れるだけの余裕があると見なされるから」とかいうことになるが、仮説でしかない。その後その特徴が実は生存に有利なことが判明するかもしれない。この本でも色々な現象について色々な説明が試みられるが、話半分というところだろう。もちろん、そういう話半分な話が好きな人には色々面白いと思う。

‎Oxford Univ Pr (2018/11/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0198778752