Bilingualism (Amazon.co.jp)
目次:1. なぜバイリンガルが重要か 2. バイリンガルになること 3. バイリンガルの経験 4. バイリンガルの認知 5. バイリンガルの脳 6. バイリンガルの発話 7. 筆記におけるバイリンガル 8. バイリンガルの過去・現在・未来
著者は欧州議会のプロの通訳だったりするらしく、単なる学者ではない。また、バイリンガルに関する研究をまとめている部分もあるが、かなりの部分が著者自身の調査に基づいている。このブログで紹介しがちな特定の学問分野への入門書とはちょっと違う。
最初のうちは政治的な話。二つ以上の言語を話せるのが脳に良い/悪いという議論は、移民差別、border controlなどと密接に関わっている。Political Correctnessは別とすれば、果たしてバイリンガルは認知機能や幼児の発達に良いのかどうか。この件について著者は極力科学的なエビデンスを参照しようとしているが、結局のところ、確定的な結論を引き出すほどの研究結果がないようだ。はっきりした利点としてもちろん単純に色んな言語を使う人と話せるとか、老人性痴呆に対して明らかに抵抗性があるとかはあるが。
この本の真ん中あたりの結構な部分が、バイリンガルのリアルな経験を説明しているが、要はバイリンガルの経験する世界をモノリンガルに対して説明しているようなことで、我々としては当たり前のことしか書いていない。しかし、確かにこの類の質問はよく受ける。誰でも「頭の中は何語なんですか」という質問を食らったことがあるだろう。酷い場合は「頭の中は関西弁なんですか」みたいな質問を受けることすらある。説明に困るが、我々としては別に重要な質問とも思えない。この類の質問がある人はこの本を読んだほうがいい。そんな人がこのブログを読んでいるとは思えないが。
このあたりまでは一応、科学的というか中立的っぽい記述がされているが、最後のほうはもうはっきりpro-bilingualismである。英語至上主義に反対したりしているのは、結局、英語圏が念頭にあるからなんだろう。別にそれ自体はわたしも反対する理由がない。
結局、この本のせいではないが、バイリンガルについてはたいして科学的知見がない。そして少なくとも日本ではバイリンガルを差別する勢力は少ない。いることはいるけど、大半の人は、話せる言語は多いに越したことはないくらいに思っているのではないか。これ以上この件について調べても、政治的にはともかく、少なくとも科学的にはあまり面白い知見は出てきそうにない。
The MIT Press (2025/2/4)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0262549431