Violence (Amazon.c.jp)
Amazonのレビューに一つ酷評がついているが、全く同感だ。これまで大量にVSIシリーズを読んできたが、VSIに限らず、このブログの中でも屈指のダメ本だろう。
内容は、例によって最初に定義みたいな話はあるが、結局曖昧なまま進む。あとは特に近代以降の、社会問題化したような古今東西の暴力(戦争~残虐刑~DVを含む)を断罪陳列しているだけ。定義について曖昧にしたまま、著者の倫理観的に許されない暴力の事例が並べられているだけだ。
例えば、警察官が犯罪者を取り押さえたりするような場合や、子供同士のケンカなどは取り上げられもしない。植民地支配は暴力だが、それに対する反乱は暴力ではないらしい。死刑は暴力だが懲役は暴力ではないらしい。そういう定義ならそれで全く構わないが、それならその点ははっきりさせるべきだろう。
この本はVSIでたまにある「断罪系」なんだけど、本当にそれ以外に内容がほとんどない。こういう話なら、
・暴力の生物学的起原
・暴力の心理学的メカニズム
・国家による合法的暴力の独占の変遷
・暴力のコントロール方法
・暴力を制圧するための暴力
・…
など、色々な興味深い論点があるはずだが、ほぼ問題にされていない。せめて聞いたことのない事例が多く紹介されていれば世界史の勉強になったり、人によっては猟奇的ホラー的興味の対象になるかもしれないが、ほぼ聞いたことのある話だ。
まだまだ文句は言えるし、実際に書きもしたが、長くなるので消した。著者について少し調べたら、歴史の専門家で、生物学・心理学・社会学・哲学みたいな要素はない。歴史の特定の分野では権威なんだろう。
Oxford Univ Pr (2022/6/24)
言語 : 英語
ISBN-13 : 978-0198831730