2025年3月12日水曜日

Natalie Labriola "Tarot: Timeless Secrets of the Ancient Mirror" [タロット:古代の鏡の永遠の秘密]

Tarot (Amazon.co.jp)

わたしにとってTarotは流行らないゲームだが、これはゲームではなく、占いで重視されるMajor Arcana 22枚の解説が主。フランス語圏と違って英語圏ではライダーウェイト版という権威があり、カードがわりと統一されている。

どのみちそんなに歴史のあるものでもないし、本質的にゲームカードなので、いくらでも想像は膨らむし適当なことも無限に言えるが、こういうのも社会情勢とか文化が反映される。そういうことではイルミナティカードのほうが面白い気もする。

たまに易経とか読むこともあるが、占いという作業も面白いのかもしれない。将来の展望や行動を考える時に、机の上に客観的なデータだけでなく、全くランダムなタロットや筮竹があったら考察が捗るのだろうか。全くあり得ない話でもない気がしてきた。というか、気が付いていないだけで、我々の思考は実は常にそんなものなのかもしれない。我々の思考は、体調や天候や場所や最近の出来事や、要するに多数の偶然に影響されているわけで、それにタロットを追加しても結果に大差はなく、むしろ考えやすいまであり得る。というか、それ以外に思考の方法があるのだろうか。

Wooden Books (2024/6/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155505

2025年3月5日水曜日

Arthur Conan Doyle "The Case-Book of Sherlock Holmes" [シャーロック・ホームズの事件簿]

The Case-Book of Sherlock Holmes (Amazon.co.jp)

ここまでシャーロック・ホームズの作品を基本的には発表順に読んできたが、正典と呼ばれるのはこれが最後。発表年では最初の作品から最後の作品までの間はほぼ40年間ある。このブログによれば、わたしが"A Study in Scarlet"を読んでからここまでだいたい8年と少し。

ホームズは基本的に馬車と電報のイメージだが、最後のほうは自動車とか電話とか言っているし、わたしの記憶にある限り、alibiという単語が出てきたのはこの作品集の一度切りだ。推理小説という形式も普通になってきたんだろう。40年の間に随分時代が進んだらしい。一方、わたしの8年間は大した進歩がないような気がする。やっていることが何も変わっていないからな…。

だいたい全部面白かった。一つだけ選ぶなら"The Hound of the Baskervilles"かもしれない。わたしの読書の中でフィクションが占める割合は大きくないが、常に何かしらは読んでいる。こういう安心して読んでいられる小説は良い。また何か探そう。

SeaWolf Press (2023/1/1)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 979-8886000832

2025年3月3日月曜日

Christian Jacq, Institut Ramsès "Le Petit Champollion illustré - Les hiéroglyphes à la portée de tous" [図解小シャンポリオン-みんなのヒエログリフ]

ヒエログリフの入門書。図解というのは、まあそもそもヒエログリフが図解ということかもしれない。入門と言っても、実際には文字集・単語集みたいな感じで、筆者のエッセイのようなものが綴られている。どこまでがエジプト学的に確定している事実で、どこからが筆者の感想なのか分かりにくい。面白いから売れているようだが。例えば中国語でいえば、漢字と熟語についての成り立ちを面白く解説しているようなもの、と言えばほぼ正確にこの本の実態を表しているだろう。文法とかそんな話はほとんどない。発音も結局は古代ギリシア語からの推測でしかなく、あまり真剣に考えても仕方がない。そもそもセム語とかその辺りの言語は母音を書かない。

ということで古代エジプト語を真剣に勉強するというような本ではない。一応練習問題とかもついていたりするが、気楽な読み物と考えるべきだろう。しかし、時々真剣に興味深い話もある。ちょっと記録しておこう。

ヒエログリフは基本的に象形文字を組み合わせて意味を表すが、音写もできるし、併用することもできる。フランス人に対してこの事態を説明するのは面倒だが、漢字と同じことなので我々には何の問題もない。で、アルファベット的にヒエログリフを並べた時にAに相当するのが𓄿だが、そもそもヒエログリフに母音を書く習慣はなく、これは実際には「子音のA」である。

我々は「子音のI(Y)」や「子音のU(W)」は知っているが、「子音のA」は知らない。本書にもそれ以上説明がないが、ヘブライ語のℵと同じで声門閉鎖音を表す。ドイツ語は単語の先頭の母音が無意識に必ずこの音になっており、したがって"Es ist ein...."みたいな文があったとしても単語がくっついて発音されることはない。アメリカ人でもappleて発音してみ、と言えば最初のappleの前に無意識に𓄿が入ることが多いようだ。というか、日本人でも「𓄿えっ!」と驚く時に入る人のほうが多いような気がする。しかしこれらの例では𓄿が入っても入らなくても言葉の意味は変わらないし、誰も気が付かないくらいかもしれないが、セム語では意味が変わってしまうのだろう。

読んでいるとこんなことも色々考える。あと、これはこの本がフランス語だから筆者も何にも思っていないのかもしれないが、日本語の「知っている」英語の"know"の一語に対し、フランス語には"connaître/savoir"の区別があり、スペイン語には"conocer/saber"の区別があり、ラテン語には"cognōscere/sapere"の区別がある。で、古代エジプト語にも当たり前のようにこの区別があるが、確かにこの二つは人間の脳の動作として全く別物の気がしてきた。

そんなことを考えていると、そういえばスペイン語のestar/serの区別はなんだとか、元のラテン語がどうとか、もはやヒエログリフとは関係のない話だが、どんどん余計な調べものをしていたので読み終わるのに時間がかかった。本質的にはヒエログリフの組み立てからイスラーム以前のエジプト人の思考を問うていく感じがハイデガーみたいだ。結果的には退屈しない本であった。

Robert Laffont (25 août 2022)
Langue ‏ : ‎ Français
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-2221263877