2025年1月28日火曜日

Arthur Conan Doyle "His Last Bow" [最後の挨拶]

 His Last Bow (Amazon.co.jp)

ホームズの短編集としては三冊目。なんか粗い話が多かった気がする。第一次世界大戦前後で時代のせいだろう。だいたいジョジョの奇妙な冒険でいうところの第一部くらいという感じ。自動車とか言い始めているし。明確に言えるのは、ホームズとしては最初に読む一冊ではない。

CreateSpace Independent Publishing Platform (2014/9/30)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1502571120

2025年1月22日水曜日

Linda Johnson-Bell "North European Paganism" [北欧の異教]

 North European Paganism (Amazon.co.jp)

今の地域で言えば主にデンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランド・バルト三国くらいのキリスト教以前の宗教についてのエッセイという感じ。資料というよりは読み物。と言っても、ヨーロッパ、特に西欧は基本的にキリスト教のせいで古代の宗教はすべて滅亡しているし、あまりはっきりしたことも分からないのかもしれない。

こういうことだから、後でナショナリズムの時代になった時に、民族神話みたいなのをでっちあげる段になって苦労する。ローマ・ギリシアの伝統を引き継げる地域はいいが、イギリスとかフランスはケルトに訴えるしかないし、ドイツは北欧寄りになる。

で、その北欧だが、それにしても今、本気で北欧の神々が信仰されているフシもなく、この本も実際にはファンタジーの材料という感じ。日本人はまあまあ本気で神社にお参りしていると思うが、そういう感じではない。そもそもpaganismというのが元々侮蔑語で、異教というより邪教と翻訳するほうが正しいのかもしれない。

出版社 ‏ : ‎ Wooden Books (2023/9/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155468

Danu Forest "Nature Spirits: Wyrd Lore and Wild Fey Magic" [精霊:運命の伝承と自然の妖精魔法]

Nature Spirits (Amazon.co.jp)

日本で言えば妖怪図鑑みたいなもの。題材はギリシア~ケルト~北欧まで広いが、ほぼすべて欧州圏。妖怪というと未だに水木しげるのイメージが付きすぎていると思うが、日本に限らず、何でも謎の妖怪/妖精/精霊のせいにする文化はあるらしい。この本については、英語圏では中学生くらいが対象かと思うけど、この類の話を知っていないと、特に児童文学とかスッと読んでいけないこともあるだろう。基礎教養として読む本だ。

Wooden Books (2008/10/20)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1904263821

2025年1月15日水曜日

Gregory R. Beabout "Ethics: The Art of Character" [倫理:人格の技術]

 Ethics (Amazon.co.jp)

西洋倫理学の歴史から最近の論点までの簡単な紹介。後半になると、よく会話のネタになるジレンマの話が増えてくる。Wooden Booksなんで、そんなにテクニカルな話になるはずもなく、理屈好きの高校生などには良いかもしれない。個人的に思うのは、古代の倫理学の持っていた大きな世界観とかもっと考えても良いのかもしれない。それはそれとして、なぜ人類は倫理とかいう制度を発展させたのかとか考えると、どんどんスケールの小さい、現代的な視点に還元されて詰まらなくなる。しかし、考えなくていい話でもないな…。

Bloomsbury Pub Plc USA (2018/1/2)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1635570830

Abhinav Singh, Charlotte Jensen "Sleep to Heal: 7 Simple Steps to Better Sleep" [癒しの眠り:よりよい睡眠への七つの簡単なステップ]

Sleep to Heal (Amazon.co.jp)
良い眠りの科学(Amazon.co.jp)

個人的にこの本が期待外れだった理由を三つ書いていくことになる。

第一に、この本の対象読者がわたしではない。著者は睡眠外来の現場の医師で、主に不眠を扱っている。一応、睡眠全般について書いてはいるが、著者の目線は圧倒的に睡眠障害・不眠の人に向いている。わたしはというと、不眠症ではないし、むしろ起きられなくて困っている側だ。不眠の多くの人はそもそも睡眠が嫌いなことが多いが、わたしのほうでは睡眠を愛している。そんなわけで、著者のアドバイスのかなりの部分が無用である。逆に言うと、不眠症の人はこの本を読むと色々学ぶことがあるのかもしれない。

第二に、わたし自身が睡眠関係の本を読み過ぎているせいか、新しい知識があまりない。多分、このブログでも相当紹介しているし、日本語でもいい本は多い。書店に行けば自己啓発書のコーナーに一冊くらいは必ず平置きされているだろう。この本も翻訳されているようで、多分平置きなのではなかろうか。その中でこの本が特に劣っているとは思わないが、特に優れているかどうかも不明。結局、不眠の人が求めているのは解決策であり、日光を浴びるとかシャワーとか、その類のことはどんな本にも書いてある。一つ特徴的なこととして、CPAPはかなり推奨されている。個人的にもCPAPで人生が変わったみたいな話はよく聞くし、不眠の人は考えてもいいかもしれない。

第三に、ムダに分厚くて書き方が冗長な気がする。これは上二つの話とも関係があって、一つには著者の挙げてくる臨床症例があまりにわたしに縁が無さすぎる。もちろんわたしがこの件について既に知識があり過ぎるせいもある。ただ、それを別にしてもムダが多いとというか、膨らませ過ぎな気もする。著者の個人的な話も多い。

とは言っても、実際に不眠の人がこの本を読んだら有意義だと思うのかもしれない。ただ、個人的に思うのは、不眠で困っている場合は、この本を読むより睡眠外来に行ったほうがいい。睡眠薬を買うくらいならこの本を先に読むべきだが。純粋に科学的な興味で読むとしたら、ちょっと期待外れになりそうだ。

Humanix Books (2023/6/6)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1630062347

2025年1月14日火曜日

Amy Jones "Character: Arcs and Archetypes" [キャラクター:物語と元型]

Character (Amazon.co.jp)

フィクションの中のキャラクターの分類学みたいな話。どっちかというと、物語を作ろうという志向のある人向けに書いてある感じ。実際、小説家とか脚本家みたいな人はこんなことを考えているんだろうなとも思う。個人的に思うのは、フィクションというか話を作ろうなどと考える人は、本当に子どもの頃からそんなことをしている印象がある。そんな子供に向いている本ではある。わたしには縁のない世界かもしれない。わたしは相当な読書量があるが、フィクションの占める割合はかなり小さい。そして創作の才能は皆無だ。

出版社 ‏ : ‎ Wooden Books (2023/10/15)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-1907155512

2025年1月1日水曜日

Paul R. Rosenbaum "Causal Inference" [因果推論]

 Causal Inference (Amazon.co.jp)

目次:1. 処置により引き起こされる効果 2. 無作為化実験 3. 観察研究:問題 4. 測定された共変量のための調整 5. 測定されなかった共変量の感度 6. 観察研究の設計の中の疑似実験的手法 7. 自然実験と中断と操作変数 8. 再現性と解像度とエビデンス因子 9. 因果推論の中の不確実性と複雑性

統計的因果推論の入門書というか、理論的基礎を考える本。似たようなタイトルでThe Book of Whyという本もかなり前に読んでいて、それも統計的因果推論の入門書には違いないが、一応別方面の本だ。The Book of Whyは統計的因果推論の特定の手法、do-calculusを紹介して技術面にも入っているが、本書は古典的な推測統計学しか前提にしていない。あまり数式を使っていないのは、数式以前の世界だから。代わりに箱ひげ図が駆使されている。そして、わたしの意見では、統計的因果推論の原理的な話について、こちらの本のほうが面倒ではあるが、遥かに説得力のある議論が展開されている。

たとえば、こういう話で典型的に出てくるのが喫煙と肺がんの関係で、疑似相関の疑いをどう排除するかだ。The Book of Whyの場合は、確か「そもそもそんな大きな交絡因子は数学的に不可能」みたいな話だった記憶がある。あの本の読んで気になったのは、そもそも交絡因子として何を想定するかが不明ということだった。

本書の場合はもっと分かりやすい。本書の話を単純化すると、喫煙者の肺がんリスクが非喫煙者より9倍(一日二箱以上なら60倍)もある以上、これが疑似相関であると主張するには、喫煙者と非喫煙者の間に9倍(60倍)の差のある因子を発見しなければ説得力が弱い。

早い話が、喫煙者と非喫煙者の肺がんリスクが喫煙のせいではなく喫煙者の特定の遺伝子のせいであると主張するためには、喫煙してもしなくてもその遺伝子だけで肺がんリスクが9倍にならないといけないわけだ。そんな劇的な効果のある遺伝子が今後発見されるとは考えにくい、みたいな。もちろん今の話もさらに厳密に考えればという話はできるが、ここまできたら、因果関係を否定する側に立証を要求するほうが普通だろう。

というような話は一例だか、この類の話をこんな雑にではなく、冷静に一つ一つ議論を積み重ねている。ただし着実過ぎてムズい可能性はある。予備知識としては統計検定二級くらいの知識で十分だが、今くらい雑にまとめてくれる先生がいたほうが理解しやすいかもしれない。書き方の問題もあるが、議論がどこに向かっているのか分かりにくいかもしれない。その意味では数式は確かに少ないが、数学書を読むくらいの覚悟が必要だ。

The MIT Press (2023/4/4)
言語 ‏ : ‎ 英語
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-0262545198