目次: 導入.神聖ローマ帝国とは何だったのか 1.ローマ帝国とドイツの王国:カールからオットー朝へ 2.中世盛期:ザーリア朝からホーエンシュタウフェン朝へ 3.中世後期の帝国:ハプスブルク家の勃興 4.近代前期の帝国(1):マクシミリアンI世から三十年戦争へ 5.近代前期の帝国:ヴェストファーレン条約から1806年へ 後書き.神聖ローマ帝国の遺産
神聖ローマ帝国は神聖でもなければローマでもないが、だいたいフランク王国からナポレオンがやってくるまでの中世近代のドイツの政治史。この辺りの歴史が分かりにくいのは、建前としては封建制で、ドイツの各地域というか各家の独立性が高く、それぞれが自律的に行政や同盟や戦争をやっている上に、その中のどこかの家の誰かが選ばれて皇帝になって、一応尊重されるという二重構造になっている。
しかも一応教皇の承認ももらいたいとか、しかし教皇領も奪いたいだとか、プロテスタントが出現したり宗教的な問題もある。地理的には西からフランス人が攻めてくるし東からトルコ人が攻めてくるし北からスウェーデン人が攻めてくるし南からイタリア人が攻めてくる。その上でスイスが独立したりハンガリーがもめたり、その他ハプスブルクだのルクセンブルクだのブランデンブルクだの内部の争いも絶えない。ハプスブルク家の時代になるとスペインも関与するしポーランドの王位も問題になり、とにかくヨーロッパの真ん中の国は大変だ。
この辺りのややこしく長い歴史を本書は丁寧に編年体で追ってくれていて大変勉強になる。これでも大筋に過ぎず、完全には程遠いのだろうけど、意外にこういう通史はあまりない気がする。少なくとも高校の世界史レベルでは何のことやらほぼ分からない世界だ。VSIなのでさして頁数もないが、かなり濃密な読書体験になる。調べ出せばキリがないし、世界史が好きな人の気持ちも少し分かってきた。面白いし、翻訳すれば世界史選択の高校生の必読書になると思うがどうか。とにかく、日本人が想像で作るドラクエ的なインチキヨーロッパ中世とは、こういう中央ヨーロッパ史であり、イギリスでもフランスでもない。
The best introduction to the history of the central Europe.
Oxford Univ Pr (2018/10/1)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198748762