1. 言語を渡り歩く事 2.定義 3.言葉と文脈と目的 4.形式と自己同一性と解釈 5.権力と宗教と選択 6.世界の言葉 7.翻訳文学
話は、ネイティブスピーカーのいない謎の中間言語、"kanbun-kundoku"漢文訓読から始まる。そう言われてみれば、我々はもっとこの奇妙な言語についてもっと真剣に考えるべきだった。本の主題は、翻訳者が翻訳をする時に感じている様々な方向からの制約、そして、翻訳が逆に言語や社会に与える影響。機械翻訳にも触れられるが、いずれにしても、技術的な話には深入りせずに、あくまで言語・社会と翻訳との関わりが主題だ。
個人的な事情として、わたし自身、翻訳者なので、色々「翻訳者あるある」な話や考えさせられる話があった。翻訳者や翻訳を目指す人は読んで損はない。mono-lingualな人がこの本を読んでも冴えないかもしれないが、それにしても、政治などが翻訳で決定的な影響を受けるようなことは良くある話で、ごく最近でも酷い誤訳が新聞やテレビをムダに騒がせていたりするのだから、誰でも翻訳についてこの程度の知識はあって良い。もっとも、mono-lingualがこのブログを読んでいるとも思えんが…。
さらに全く個人的な事情だが、翻訳業界では、「いかにも翻訳」な文体が軽蔑され、「日本語らしい」文体が良しとされているが、何かどうでもいい気がしてきた。昔なら、わたしが好きな宮澤賢治は翻訳でもないのに翻訳調の詩を書いて完全に成り立っている。最近なら、わたしが嫌いな村上春樹も翻訳調だ。そして何より、日本語は漢文訓読によって回復不能な影響を蒙っており、英文翻訳調を漢文訓読調に直しても何にもなっていない気もしてきた。まあ、言語感覚が繊細な人なら、また違う見解もあるのかもしれない。
It was a very good reading. I am a translator myself and I guess that my English a bit odd for native English speakers. Also, my Japanese is too affected by foreign languages and of course by kanbun-kundoku. That sounds awkward but being a walking-Babel is a source of a lot of fun.
Oxford Univ Pr (2016/09)
言語: 英語
ISBN-13: 978-0198712114