確率概念に関する哲学の最高の入門書。この本が日本語訳されていないどころか、日本人が読んでいる形跡すら発見できないのはとても残念なことだ。だいたい、日本では確率という概念が哲学的に考察されていないらしい。めちゃめちゃ面白いのに。今まで類書で、Donald Gillies "Philosophical Theories of Probability"もあったが、こちらのGalavotti本はGillies本を完全に越えていると思う。
多少統計学に詳しい人なら、統計学が多大な哲学的問題と神学的論争をはらんでいることは、誰でも知っていると思うが、確率概念も似たようなことになっているというか、もっと酷いことになっている。と言っても、ピンとこないかも知れないので、目次に出てくる人名を挙げておこうと思う。いずれも、確率理論に大きな貢献をした人たちだ。ヤコブ・ベルヌーイ、ニコラス・ベルヌーイ、ダニエル・ベルヌーイ、トーマス・ベイズ、ガルトン、ピアソン、フィッシャー、フランシス・ベーコン、ミル、ハーシェル、ヒューウェル、コルモゴロフ、ラプラス、ロバート・レスリー・エリス、ジョン・ベン、リカルド・フォン・ミーゼス、ハンス・ライヘンバッハ、アーネスト・ナジェル、ピアス、ポパー、ハンフリー、ポワンカレ、ド・モルガン、ジョージ・ブール、ウィリアム・スタンリー・ジェボンズ、ジョン・メイナード・ケインズ、ラムジー、ウィリアム・アーネスト・ジョンソン、ヴィトゲンシュタイン、ワイスマン、カルナップ、ハロルド・ジェフリー、ウィリアム・ドンキン、エミール・ボレル、ド・フィネッティ、リチャード・ジェフリー、パトリック・スップス。
大雑把には、ラプラスの古典的解釈から始まり、頻度派・傾向派・論理派・主観派の四つの派閥が論争を繰り広げている。統計学の世界では、大雑把には、ネイマン・ピアソン派とベイズ派が闘争を繰り広げており、現状では、少なくとも日本の学校の統計教育は完全に前者が支配しているが、一応教科書も周到に考えられており、逆確率の問題などは基本的には出題されない。統計検定も「信頼区間」という難解な概念が採用されている。
それに比べると、確率のほうは、未だに「同様に確からしい」とかいうラプラス以来の雑な論理が学校教育でまかり通っている次第で、要は深く考えるのが面倒なんだろうけど、こういう本を翻訳して少しは考えるべきなのだ。予備知識としては、初歩的な確率・統計理論、特にベイズの定理はよく理解している必要はあるが、基本的には数式は出てこない。あと、量子力学については、技術的細部について知っている必要はなく、ポピュラーサイエンス程度の知識でも問題ないだろう。
The best introductory book of this kind. We know a lot about controversies in the area of statistics, namely Neymann-Pearson vs Bayesian. However, there are a lot more intense controversies among four schools of probability. Really fascinating.